オーストラリアの水素研究と産業活動を統合する水素ナレッジセンター(The Hydrogen Knowledge Centre)が、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO) によって立ち上げられた。オンラインでアクセスでき、クリーンで競争力のある水素産業の発展を促進することを目指している。7月5日付け。
水素ナレッジセンターはCSIROの水素産業ミッションの一部であり、政策、プロジェクト、研究、資源に関する最新情報を定期的に提供することにより、成長を続けるオーストラリアの水素産業、政府、研究開発 (R&D) エコシステム間の協力を促進することを目的としている。
CSIRO の最高責任者であるラリー・マーシャル (Larry Marshall) 博士は、オーストラリアは、水素を利用すれば長期にわたる雇用、輸出、国内使用を通じて数十億豪ドルの 国内総生産(GDP) 成長を生み出し、それと同時に排出量の削減を行えると述べた。
マーシャル博士は「CSIRO は、化石燃料からの移行から生じる経済ギャップを埋め、オーストラリアの新しい産業を促進させるため、水素燃料の研究を開始した。オーストラリアは早いうちから研究投資をしたため、現在、排出量を削減し、新たな経済利益を生み出す水素燃料が実現しつつある」と紹介した。
HyResource は、クリーンな水素の開発と展開に関与するプロジェクト、政策、主要組織に関するオーストラリアで最も包括的な情報源となっている
CSIRO の水素産業の使命について話し合うラリー・マーシャル (Larry Marshall) 博士ら
(提供:いずれもCSIRO)
政府、研究機関、産業界のパートナーが強力に連携し、昨年、最初のミッションである水素産業ミッションを立ち上げた。
マーシャル博士は「オーストラリアの水素産業がますます強固になってきているのを目の当たりにしている。オーストラリアの水素生産は、排出量の削減を牽引しつつ、輸出用からも国内用からも大きな経済成長を生み出すことができる」としたうえで、「水素ナレッジセンターは、オーストラリアの水素研究開発に関する重要な情報の中心となるであろう。重複を避けるのに役立ち、国としての手法を育み、オーストラリアが水素燃料の開発と輸出で世界のトップとなるのに欠かせないものとなる」と語った。
ユーザーは水素ナレッジセンターのいたるところで幅広い情報にアクセスできる。例えば技術展開とエネルギー使用に基づき水素の将来のコストを予測するインタラクティブなモデリングツールもあれば、水素の基礎やエネルギーミックスでの水素の使用を説明する教材もある。
HyResource と HyResearchという2つの既存のモジュールに加えて、HyLearningという新しいモジュールにもアクセスできるようになった。ナレッジセンターには、オーストラリア全土で現在行われているすべてのプロジェクトを扱う新たな産業マップがある。ユーザーはプロジェクトの提案者、最終用途、開発状況別に検索が可能だ。
水素ナレッジセンターは、オーストラリアの水素産業のパートナーや協力者によって開発された資源も扱っている。CSIRO水素産業ミッションの広報担当者であるビッキー・アウ (Vicky Au) 博士は、新しいマップを見れば、オーストラリア全土の産業界が現在推進している85の水素プロジェクトが分かるとし、次のように語った。
「これはオーストラリア全土の水素プロジェクトと業界の発展を捉え、促進することのできる資源であり、州政府、連邦政府、業界パートナー、および研究開発パートナーと協力して開発された」
「水素ナレッジセンターの開始は、この分野全体に関与するすべての関係者の点をつなぐのに役立つため、水素産業ミッションにとって重要な節目である」
既存のHyResourceページは2020年に開始された。それ以来、オーストラリアの水素産業の発展について詳しく知りたい世界中のユーザーたちが20万回以上訪れており、水素情報に対する需要が大きいことを明らかにしている。
「クリーン水素産業が発展し進化し続ける中、水素ナレッジセンターがオーストラリアにとっても世界にとっても適切かつ貴重な資源であり続けることを願う。水素に興味を持つ人であれば、誰でも容易に情報にアクセス可能である。これはナレッジセンターの重要な特徴である。我々は、パートナー主導のモジュールとリンクさせ、水素コミュニティ向けのコンテンツを共同開発することで、これを実現する」とアウ 博士。
エド・フシック (Ed. Husic) 議員は「CSIRO の水素ナレッジセンターは、企業や家庭のニーズを満たすエネルギーを生産し、オーストラリア人の雇用を創出するために水素産業の成長を支援する」と表明した。
水素ナレッジセンターは、水素を再生可能エネルギー源の最前線に置き、産業界、大学、政策立案者を結び付ける上で重要なものとなる。オーストラリア政府の見積もりによると、オーストラリアの輸出用・国内用の水素生産は、2050年までにGDPで500 億豪ドル以上を生み出す可能性がある。
HyResource 低排出エネルギー源であるクリーンな水素の開発と展開に関するプロジェクト、政策、主要組織に関するオーストラリアで最も包括的な情報源である。現在、オーストラリアとニュージーランドの98の水素関連産業のプロジェクトの情報を保有している。HyResource のパートナーはフューチャー・フュエルCRC (Future Fuels CRC)、オーストラリア水素評議会 (Australian Hydrogen Council)、豪州全国エネルギー資源 (National Energy Resources Australia) 。
HyResearch 研究者、意思決定者、および利害関係者が、操作しやすいプラットフォームを介して水素関連の研究開発情報に幅広くアクセスできるようにするオンラインツールである。現在、約30の研究機関、科学機関、および産業組織からの、200を超えるオーストラリア国内の水素関連研究開発プロジェクトに関する情報を保有している。2021年12月のウェブサイトオープン以来、世界中の人々がサイトを訪れ、閲覧回数は6,000 回を超える。HyResearchのパートナーは、オーストラリア水素研究ネットワーク (Australian Hydrogen Research Network)。
HyLearning オンラインの学習開発プラットフォームである。インタラクティブなモデリングツールと教材を使用しており、オーストラリアの水素産業の関係者ならば誰でもアクセスできる。
HyCapability オーストラリア初の水素能力検索モジュールである。無料で使えるオンライン検索プラットフォームであり、オーストラリアの水素事業を国内外の市場と結び付ける役目を果たす。豪州全国エネルギー資源 (NERA) と豪州水素技術クラスター (Hydrogen Technology Cluster Australia (H2TCA)) ネットワークによって開発され、EconomX の支援を受けて作成された。このプラットフォームは地域の水素エコシステムとサプライチェーンの能力をマッピングし、水素バリューチェーンに合わせて水素産業向けの革新的な技術、サービス、機器製品を提供する企業を簡単に見つけることができる。
HEFT(地球科学オーストラリア) 水素プロジェクトの実行可能性の評価は、通常、それぞれの場所の評価を行うか、場所とは無関係に提供された一般的なコスト見積もりを評価する。水素プロジェクトの成功は、地域のエネルギー資源の利用可能性、主要なインフラへのアクセスと水供給、および輸出港とエネルギー市場への距離に密接に関連しているのが実情である。水素経済フェアウェイツール (Hydrogen Economic Fairways Tool (HEFT)) には、水素生産の経済的可能性が高い地域、つまりプロジェクトのいわゆる「経済フェアウェイ(安全な範囲)」を特定するためにこれらの地域要因の評価が組み込まれている。この分析の結果から、水素開発が可能な機会とそのインフラ要件が分かる。HEFT は、再生可能(風力と太陽光)エネルギー源からの水素生産と、炭素の回収と貯蔵を組み合わせた非再生可能エネルギー源(水蒸気メタン改質と石炭ガス化)を扱っている。さらに、HEFT には、損益分岐点分析やさまざまな輸出製品(液体水素やアンモニアなど)の選択など、いくつかの新しい機能が追加されている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部