2023年07月
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倫理的な価値観を念頭に開発を―量子技術の利益享受のために 豪CSIRO

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は6月7日、量子技術が将来もたらす利益を人々が公平に享受できるようにするには、倫理的な価値観を念頭に置いて開発を進めることが重要であるとの見解を報告した。

(出典:CSIRO)

豪政府は5月、量子産業の成長を推進する10億豪ドルの「国家量子戦略(National Quantum Strategy)」を発表した。豪州では2045年までに、量子技術によって60億豪ドルの経済効果と1万9,400人分の雇用がもたらされると予想されている。

一方で、量子技術は使い方次第で大きな害ももたらしうる。CSIROの量子専門家マノロ・ペール(Manolo Per)博士は、「オンラインの個人データを保護している暗号は、現在の最高性能のコンピューターでも解読に数千年を要するが、量子コンピューターならわずか8時間で解読できる可能性がある。こうしたリスクは当分先の話ではあるが、今から検討しておく必要がある」と指摘する。

CSIROのResponsible Innovation Future Science Platformプログラムで次世代技術が社会にもたらす影響を研究しているレベッカ・コーツ(Rebecca Coates)博士は、「倫理的な価値観は、未発見のリスクを明るみにし、開発を善い方向に導くことができる」と語る。また、人工知能(AI)ツールで生じている偏見等の問題を避けるためにも、「量子技術をより包摂的(inclusive)かつ利用しやすいものにする」ことが重要であると語る。

信頼できる倫理的・包摂的な量子エコシステムの構築は、「国家量子戦略」が掲げる重要なテーマの1つでもある。コーツ博士は、これを実現するには、量子技術の専門家だけでなくあらゆる職業・階層の人々が開発に関与することや、意思決定者が量子技術の十分な知識を身に着け、学校教育等を通じてこうした知識を一般社会にも浸透させることが重要であるとしている。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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