2023年08月
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宇宙放射線でペロブスカイト太陽電池の損傷を防ぎ、熱処理で効率を回復する方法発見 オーストラリア

オーストラリア研究会議励起子科学分野のセンター・オブ・エクセレンス(ARC Centre of Excellence in Exciton Science)は7月18日、同センターに所属する研究者らが、地球低軌道(LEO)の陽子放射線を浴びることで生じるペロブスカイト太陽電池(PSC)の損傷を修復し、効率を100%まで回復する方法を実証したと伝えた。この研究の成果は学術誌Advanced Energy Materialsに掲載された。

(出典:ARC Centre of Excellence in Exciton Science)

PSCは、軽量で安価に製造でき、効率性や放射線耐性が優れていることから、宇宙機の低コストな電源になりうると期待されている。シドニー大学のアニタ・ホー-ベイリー(Anita Ho-Baillie)教授が率いる研究チームは、PSCのさまざまな正孔輸送材料(HTM)と添加剤(dopant)に対し、LEOで太陽電池が晒される陽子線放射を模した試験を行った。基板には、これまでのPSCの陽子照射試験で用いられていた基板よりも薄く軽量なサファイア基板を使用した。

照射試験と化学分析の結果、チームは、一般的なHTMである2,2',7,7'-テトラキス [N,N-ジ(4-メトキシフェニル)アミノ]-9,9'-スピロビフルオレン(Spiro-OMeTAD)と添加剤リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を用いた太陽電池で、陽子を照射された際、フッ素拡散により欠陥が生じることを明らかにした。さらに、これらの材料を用いずに作製した太陽電池で、このような損傷が生じないことと、陽子照射による劣化を真空中の熱処理(annealing)により修復できることを示した。

ホー-ベイリー教授は「この研究で生まれた知見が今後、宇宙用の低コスト・軽量の太陽電池の開発に役立つことを願っている」と語った。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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