オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は6月6日、量子状態の「壊れやすさ」を活かせる量子センシングの展望に関する見解を発表した。
量子コンピューターは従来のコンピューターよりはるかに高い演算能力を持つが、実用化にはまだ長い年月を要するとみられている。量子コンピューターの構成単位である量子ビットは量子状態にあるとき高い処理能力を発揮するが、わずかな擾乱の影響を受けて崩壊してしまうため、この状態を維持することが非常に難しい。この壊れやすさは量子コンピューティングの限界となっている一方で、量子センシングには大きな強みとなりうる。CSIROは、量子センシングでできることとして、以下のような例を挙げている。
量子状態の感度の高さを微小な物の測定に利用することで、医療からサイバーセキュリティまでさまざまな分野に飛躍的進歩がもたらされる可能性がある。例えば、磁気共鳴画像法(MRI)が臓器や筋肉、関節の構造を可視化するのに対し、量子センシングでは、細胞や分子1つ1つの構造や働きを明らかにできる。
量子センサーは原子レベルの微弱な磁場を検出できる。これは、例えば鉱山資源の探査や、GPSが使用できない場所におけるナビゲーションに利用できる可能性がある。また、シリコンに代わる新たなコンピューター材料を開発する際、量子センサーで磁気的挙動を測定し、開発すべき材料の選択に役立てることができる。
(出典:いずれもCSIRO)
量子を用いた生体センシングでは、高い感度と解像度により、細胞内部の個々のタンパク質などの微小な物質同士の相互作用を明らかにできる可能性がある。CSIROの研究者らは、新薬の開発や試験に向け、量子センサーを用いてタンパク質の構造や機能、相互作用を探索している。
CSIROではこれらすべての量子センシング分野に対する研究が行われている。将来、量子の用途がコンピューティングを超えて拡大し、その高い感度がさまざまな新技術で活用される日が来ると期待される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部