オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は5月12日、研究者との連携が中小企業(SME)のイノベーションを加速することを示す新しい報告書を発表するとともに、電気刺激と作物の生育に関する研究開発に取り組むレインスティック(Rainstick)社の事例を紹介した。
ダリル・ライオンズ氏とマイク・ブラック氏は、世界の食糧生産、バイオ燃料、食品安全の未来のために、植物や菌類に電気刺激を利用するパイオニアである
© JACKIE COOPER 2019 (出典:CSIRO)
レインスティック社は、マイク・ブラック(Mic Black)氏とダリル・ライオンズ(Darryl Lyons)氏によって2022年に創業されたアグリテック企業で、雷のような電気刺激を活用して作物の発芽や成長、気候変動への耐性を高める技術を開発している。ダリル氏の出自であるマイアワリ族は穀倉地帯に暮らすオーストラリアの先住民族で、雨乞いの儀式で雷を呼ぶ民族として知られている。彼らはこの伝統知と、高電圧にさらされたキノコは成長が促進されるという日本の研究を結びつけ、家庭のガレージから本格的な研究をスタートさせた。
彼らは、CSIROのKick-Startプログラムに参加したことで、農業研究者との連携を実現した。電気刺激による作物の回復力向上、収量増加、化学物質への依存度の低減などの研究を始め、現在は400m2のバイオエレクトリック研究・生産施設を運営し、20種を超える植物を調査し、10万本以上の苗を試作している。
また同社は、ベンチャー・エクスチェンジ・プログラムやインド・オーストラリアRISEアクセラレーターへの参加を通じて、シンガポールやインドへの展開も目指しており、グローバル市場での事業拡大に乗り出している。
CSIROの調査報告では、研究連携はSMEのイノベーションを加速させ、新製品や改良製品、試作品を提供し、初期段階の研究開発のリスクを軽減できるとしている。さらに、地方のSMEは都市部よりも研究連携による成果が出やすいことが示されている。
CSIRO SME Connectプログラムのジョージ・フィースト(George Feast)博士は、「今回の報告書では研究開発に取り組む中小企業が大きな成果を上げていることを示しています。この調査結果が、他の企業がオーストラリアの研究セクターとの連携を検討し、独自のプロジェクトを模索するきっかけとなることを願っています。私たちは、企業がそれぞれのアイデアに最適な支援と研究パートナーを見つけるお手伝いをします」と述べている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部