オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)は5月28日、韓国の延世大学と共同で、外科手術や薬剤送達に新たな可能性をもたらすハイドロゲル素材を開発中であると発表した。
この研究は、ナノスケールの高分子「ボトルブラシポリマー」を基盤とし、薬剤送達や組織再生を支援する高度なハイドロゲルを設計するものである。従来のハイドロゲルは化粧品やコンタクトレンズなどにも用いられてきたが、本研究で開発される素材は、より高機能で生体適合性に優れ、医療用途への展開が期待されている。
シドニー大学のシドニー・ナノ研究所に所属するマルクス・ミュルナー(Markus Müllner)准教授は、「高度に分岐した高分子とハイドロゲルの融合によって、がん細胞に直接薬剤を届けるような精密な送達技術が実現できる可能性があります」と述べた。チームはまた、軟骨の代替となる注入型ゲルの開発にも着手しており、手術を必要とせずに関節の機能を回復させる技術として、変形性関節症などへの応用が見込まれている。体内環境に応じて形状や硬さが変化する特性を持つため、骨や筋肉への密着性も高い。
マルクス・ミュルナー(Markus Müllner)准教授
Credit: Nicola Bailey / University of Sydney (出典:いずれもシドニー大学)
さらに、研究室で培養された臓器(オルガノイド)の支持構造や、再建手術後のコラーゲン形成促進など、多様な医療シーンでの活用が視野に入っている。素材は3Dプリンティングへの適合も考慮されており、今後の医療機器製造の革新に寄与する技術となる可能性がある。
この国際共同研究は、韓国の延世大学のキム・ビョンス(Byeong-Su Kim)教授との提携により2022年から始まり、現在はオーストラリアのクイーンズランド工科大学(QUT)、ニュー・サウス・ウェールズ大学(UNSW)、バイオメディカル企業ジェロミクス(Gelomics)社にも拡大している。両大学の共同助成制度や、オーストラリア政府のグローバル科学技術外交ファンド(GSTDF)による支援も受けており、今後の商業化に向けた研究開発が進められている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部