オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)シドニー校は5月28日、スタートアップ企業の製品化を支援するため、電気工学分野の専門人材による新たな支援体制「テクノロジー・トランスレーション・スクワッド(TTS)」の設立を発表した。
オーストラリアでは大学が基礎・応用研究において高い評価を受けている一方、製品開発の後期段階に対する支援は限定的であった。UNSWが発足させたTTSは、電化やクリーンエネルギー分野で活動する中小企業や新興企業に対し、迅速な技術支援を提供する国内初の大学拠点サービスである。
本事業は、連邦政府の「リサイクルとクリーンエネルギーのための先駆者プログラム(TRaCE)」により支援されており、要件を満たす企業は最長5日間の無償支援を受けられる。リード・テクノロジー・トランスレーターのマシュー・プリーストリー(Matthew Priestley)博士は、「2050年までにネットゼロを達成するためには、主に電化の推進が不可欠であり、当然ながら多くの電気技術者が必要です」と述べた。さらに、「オーストラリアでは電化の需要が供給を上回っており、特に電気工学製品の製造分野では技術的専門知識が著しく不足しています」と現状の課題を指摘した。
TTSは、財務的価値に偏重せず、社会的・産業的インパクトを重視した支援を行う点で、従来のコンサルティング企業とは異なる。すでにニューサウスウェールズ州のエネルギー貯蔵スタートアップ企業グリーン・グラビティ(Green Gravity)社との間で220万豪ドルの契約が成立しており、商業化に向けた設計支援が進んでいる。
同社の創設者兼CEOであるマーク・スウィナートン(Mark Swinnerton)氏は「UNSWとの連携により、グリッド統合などの分野で貴重な技術的知見を得ることができました」と話す。同社は既存の垂直坑道を再利用した重力発電を行っており、再生可能エネルギーの長期蓄電を低コストで実現している。今後、TTSとの協働で設計最適化と商業展開を目指しているという。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部