オーストラリア国立大学(ANU)は8月21日、ニューサウスウェールズ大学(UNSW)や国内外の研究機関と共同で、南極の氷や海洋、生態系における急激かつ不可逆的な変化が進行しており、温室効果ガス排出の削減が遅れれば将来世代に壊滅的影響を及ぼす可能性があると発表した。研究成果は学術誌Natureに掲載された。

南極大陸で進行中の大規模かつ急激な変化は「相互に関連しており」、特に海面水位や生態系に対して地球規模の気候に波及している
Credit: Jay Ruzesky/Unsplash (出典:ANU)
研究によると、西南極氷床(WAIS)は深刻な崩壊の危機に直面している。崩壊すれば海面は3メートル以上上昇し、世界中の沿岸都市を脅かす。筆頭著者でオーストラリア南極局(AAD)主任科学者のネリリー・エイブラム(Nerilie Abram)博士は「南極の氷、海洋、生態系ではすでに急速な変化が観測され、温暖化が進むごとに状況は悪化します」と述べた。
南極海氷の減少も重大だ。海氷の減少は浮氷棚の崩壊を招きやすくし、太陽熱を吸収する海面が拡大して地域の温暖化を加速させる。南極海の深層循環の減速も観測され、海洋の熱やCO2の吸収能力低下につながる恐れがある。
ニューサウスウェールズ大学およびオーストラリア南極科学卓越センター(ACEAS)のマシュー・イングランド(Matthew England)教授は「海面上昇はオーストラリアの沿岸地域に深刻な影響を及ぼします。さらに南極海の酸素減少によりCO2除去が妨げられ、地域の温暖化を加速する恐れがあります」と警告した。
生態系への影響も大きい。コウテイペンギンは雛が防水性の羽毛を得るまで安定した海氷を必要とするが、近年は海氷の早期崩壊で繁殖失敗が繰り返されている。オキアミやアザラシも危機にさらされ、植物プランクトンも温暖化や酸性化の影響を受けている。
エイブラム博士は「南極条約制度など既存の枠組みだけでは十分ではありません。温室効果ガス排出を迅速に削減し、地球温暖化を1.5℃に抑えることが唯一の解決策です」と強調した。研究チームは各国政府や企業、地域社会に対し、南極での急激な変化を気候変動対策に組み込むよう呼びかけている。
今回の研究は、ACEAS、南極の環境の未来確保(SAEF)、オーストラリア南極プログラム・パートナーシップ(AAPP)、AADが主導し、南アフリカ、スイス、フランス、ドイツ、英国の研究者も参加した。成果はオーストラリア南極科学10年戦略(2025~2035年)の実現に資するものだ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部