オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は9月3日、同国のオオコウモリから新型のヘニパウイルスであるソルトガリーウイルスを発見したと発表した。研究成果は学術誌Emerging Infectious Diseasesに掲載された。
このウイルスはオーストラリアのクイーンズランド州で採取されたコウモリの尿サンプルから同定され、CSIROのオーストラリア疾病対策センター(ACDP)の高レベル封じ込め実験室で分離・培養された。ソルトガリーウイルスは、オーストラリアでウマやヒトに致死的感染を引き起こしたヘンドラウイルスや、アジアでヒトに流行を起こしたニパウイルスと同じウイルス科に属する。

ACDP病原体調査チームリーダーのジェニファー・バー(Jennifer Barr)氏
(出典:CSIRO)
CSIROのACDP実験科学者ジェニファー・バー(Jennifer Barr)氏は、世界保健機関(WHO)がヘニパウイルスを研究優先病原体に指定していることに触れ、今回の発見がこのウイルス群に関する理解を深めると説明した。同氏は「ソルトガリーウイルスは科学的には新しいですが、国民が不安に思う必要はありません。2011年までさかのぼるサンプルでも検出されており、10年以上自然界に存在しながら、動物や人間に病気を引き起こした証拠はありません」と述べた。
初期調査では、ソルトガリーウイルスはヘンドラやニパと異なる細胞受容体に依存しており、感染プロセスが異なることが示唆された。そのため、将来的にヒトや動物に感染症を引き起こすかどうかは現時点で予測できない。一方で、特定が進んだことで診断検査の開発が可能となり、仮にコウモリからの伝播や発生が起きても早期に検出し、拡大を防ぐ手段が得られる。
ウマ用の既存のヘンドラウイルスワクチンは引き続き有効であり、今回の発見は現行の健康リスクを変えるものではない。ACDPは人獣共通感染症を安全に扱う施設として、オーストラリアにおける感染症対策の要となっている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部