2025年10月
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薬剤耐性菌に対抗、5種のバクテリオファージで新治療薬開発 豪モナシュ大学

オーストラリアのモナシュ大学(Monash University)は9月25日、アルフレッド病院と共同で、薬剤耐性(AMR)菌に対抗する5種類のバクテリオファージを組み合わせた治療薬「Entelli-02」を開発したと発表した。研究成果は学術誌Nature Microbiologyに掲載された。

Entelli-02は、「クロアカ菌複合体(ECC)」と呼ばれる感染症の原因菌群を標的とするよう設計されたファージ療法製品である。この菌群は世界中の病院で発生し、2019年には20万人以上の死亡に関連したとされる。既存の抗生物質に対する耐性を獲得する能力を持つため、治療が極めて困難な感染症の一つとなっている。

研究は、モナシュ大学生物科学部のジェレミー・J・バー(Jeremy・J・Barr)教授が主導し、アルフレッド病院およびモナシュ大学感染症科のアントン・ペレグ(Anton Peleg)教授が共同で実施した。研究チームは過去10年間にわたり収集した細菌分離株を用い、ファージの分離、遺伝子改変、前臨床試験を経てEntelli-02を開発した。

筆頭著者のディネシュ・スベディ(Dinesh Subedi)博士によると、当初は3種類のファージで構成されていたが、反復的な設計により宿主範囲を拡大する遺伝子改変を行い、さらに2種類を追加して治療効果を高めたという。最終的な5種のファージカクテルは、広範囲のエンテロバクター分離株を死滅させ、感染マウスでの細菌量を99%以上減少させることが確認された。

Entelli-02はモナシュ・ファージ・ファウンドリーで製造され、オーストラリア治療製品管理局(TGA)の特別アクセス制度に基づく静脈投与製剤として、安全性および無菌性の基準を満たしている。バー教授は「Entelli-02は、抗菌薬耐性菌への対応に向けた精密治療の新たな青写真であり、臨床現場で即応できるよう設計された製品です」と述べた。

研究チームは、本製品を特別仕様許可の対象としており、今後の臨床試験への展開を見据えている。また、この病院特化型のファージカクテル開発モデルが、他の医療機関でも応用可能であることを期待している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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