オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)は9月25日、同大学発のスタートアップ企業ディラク(Diraq)社が、産業用半導体製造ラインで製造した量子チップが研究室レベルと同等の精度を示したと発表した。研究成果は学術誌Natureに掲載された。
ディラク社は、欧州の世界的なナノエレクトロニクス研究機関であるimecと共同で、シリコンベースの量子プロセッサの実用化に向けた大きな進展を達成した。両者は、imecの工場で製造されたチップがUNSWの研究室で製造されたものと同様に安定して動作し、量子計算に必要な99%以上の忠実度を維持できることを実証した。
UNSW工学部教授でディラク社最高経営責任者のアンドリュー・ズラック(Andrew Dzurak)氏は、「これまで研究室で得られた精度が製造現場で再現できるかどうかは証明されていませんでした。今回の成果により、ディラクのチップが既存の半導体製造プロセスと完全に互換性を持つことが明らかになりました」と述べた。
発表によると、ディラク社が設計しimecが製造したデバイスは、2つの量子ビット(キュービット)を用いた演算において99%以上の忠実度を達成した。この成果は、量子プロセッサが商業的価値を有する「ユーティリティスケール」に到達するための重要な段階であり、米国防高等研究計画局(DARPA)が主導する「量子ベンチマーク・イニシアチブ」の基準を満たすものとされる。
シリコンは、量子コンピューターに用いられる材料の中でも有力な候補とされている。既存の半導体技術を活用できるため、大量生産と高忠実度を両立できる点が利点だ。同教授は、今回の成果が「完全なフォールトトレラントを備えた量子コンピューターの開発への道を開きます」と発言しており、量子情報技術の産業応用に向けた一歩となる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部