オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)は9月30日、南極上空の成層圏で気温が平年より最大35℃上昇する異常な現象「突然の成層圏昇温」が発生し、オーストラリアの春夏の気候に影響を与える可能性があると発表した。
UNSW気候変動研究センターのマーティン・ユッカー(Martin Jucker)上級講師によると、南極上空12~40kmの成層圏で寒気が通常より最大35℃高くなっており、例年−55℃前後の気温が−20℃程度まで上昇している。温暖化は9月初旬から始まり、3回にわたる熱波がそれぞれ25℃以上の上昇を引き起こしたという。
この現象は「成層圏突然昇温」と呼ばれ、地表から上層大気に向かって伝わる大規模な大気波が成層圏に熱エネルギーを運ぶことで生じる。北半球では約2年に1度の頻度で観測されるが、南半球ではまれとされてきた。同上級講師は、2002年や2019年、2024年にも同様の現象が観測されており、発生頻度は従来の想定より高いことを指摘している。
通常、南極の冬期(3月~10月)は太陽が昇らず、強い偏西風によって極域の冷気が閉じ込められている。しかし、今年は地表からの大気波が強まり、南極上空の極渦内にまで熱が運ばれた。その結果、成層圏で急速な昇温が進行している。同上級講師は、「この現象は数日から数週間かけて進行するが、予測が難しい点で"突然"と呼ばれている」と説明している。
成層圏昇温は地上の気候にも影響を及ぼすことが知られている。2019年には南極上空の急激な昇温により、オーストラリアで乾燥した気候が発生し、2019~2020年の大規模森林火災「ブラックサマー」の要因の一つとなったと報告されている。一方で、2023~2024年の夏は、成層圏の低温化が影響し、当初予測された干ばつに反して冷涼で湿潤な気候となった。
また、成層圏の温暖化はオゾンの破壊を抑え、赤道から極地へのオゾン移動を増加させる。この変化は紫外線の地表到達量を減らす一方で、大気循環にも影響を与えると考えられている。現在、南極上空約30kmで昇温が続いており、オーストラリア気象局は「今春は気温が高く、南東部では降水量が増加する見込み」と予測している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部