2025年12月
トップ  > 大洋州科学技術ニュース> 2025年12月

責任あるAIで農業の生産性と回復力を高める重要性を示す 豪CSIRO

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は10月28日、衛星画像や気象モデル、生成AIの応用を通じて農業の生産性と回復力を高める「責任あるアプリケーション主導型AI(RAD-AI)」の重要性を示したと発表した。

本研究は、CSIROのCERCポスドク研究員であるサラ・ハートマン(Sarah Hartman)博士(当時、米国のカリフォルニア大学バークレー校博士課程在籍)によって行われた。同博士は、ウクライナのカホフカ・ダム決壊後に被災した農地を対象に、AIと衛星画像を組み合わせて作物の変化を解析した。教師なし学習により膨大な植生データからパターンを抽出し、崩壊地域と再生地域を識別した。また同博士は、現地調査が困難な状況でもAIが遠隔から農業の実態を把握できることを示し、その成果を「喪失と回復のモザイク」と表現した。

CSIROの旗艦的イノベーションイベント『AgCatalyst』で、持続可能な未来のための科学技術を紹介するサラ・ハートマン(Sarah Hartman)博士

同博士が提唱するRAD-AIは、農学者や生産者、アグテック企業が共同で設計し、現場の文脈とデータ主権を尊重する仕組みだ。先住知を取り入れ、公正で信頼できるAIを構築することを目的としている。AIの導入例として、スカイケルピー(SkyKelpie)社の家畜集約ドローンや、スウォームファーム・ロボティクス(SwarmFarm Robotics)社の自律走行トラクターが挙げられる。気象分野では、グーグル(Google)社のGraphCastやマイクロソフト(Microsoft)社のAuroraが高精度予報を提供し、干ばつ管理などの意思決定を支援している。一方、生成AIは誤情報の危険性があるため、責任ある運用が求められる。

また、RAD-AIの理念に基づく実装例「Trusted AI Agronomist」は、作物モデルをニューラルネットで再現し、不確実性を可視化して農家の判断を支援する。CSIROのAg2050リーダー、ローズ・ロッシュ(Rose Roche)博士は、気候変動や市場変化の中で生産性を維持するには「データ統合・気候予測・生成AI」の三領域が鍵になると述べた。

ウクライナ南部のカホフカ貯水池。ダム決壊前と決壊後の様子。2022年6月7日の衛星画像(上)は貯水池が満水状態にある様子を、2023年6月18日の画像(下)はダム決壊後の広範囲にわたる干上がりと河床の露出の様子を示している。米国地質調査所のランドサットデータとInbal Becker-Reshef提供のプラネット・ラボの画像を使用したNASA地球観測衛星の画像
Lauren Dauphin撮影 (出典:いずれもCSIRO)

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

上へ戻る