オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)は11月3日、研究者らが建物を受動的に冷却し、大気中の水分を集めるナノ構造ポリマー塗料状コーティングを開発したと発表した。研究成果は学術誌Advanced Functional Materialsに掲載された。

本コーティングはデューポイント・イノベーションズ(Dewpoint Innovations)社と共同開発された。太陽光を最大97%反射し、表面温度を周囲より最大6℃下げることで、浴室の鏡のように大気中の水蒸気が表面で凝縮し水滴となる仕組みだ。エネルギーを使わずに冷却と集水を同時に行える点が特徴である。
シドニー・ナノサイエンス・ハブ屋上で実施した6カ月の屋外試験では、年間の32%以上で露を収集でき、最適条件で1m2あたり1日最大390mLの水を得られた。12m2あれば1人分の飲料水を賄える計算となる。
集水面積が広ければ、動物用水や高付加価値植物の栽培、水素製造などの産業用途にも展開できるとしている。水素の電気分解には1kgあたり約9Lの水が必要とされ、大規模な屋根面積を活用できる利点がある。
コーティングはポリフッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロペン(PVDF-HFP)の内部構造により高い反射率を実現し、紫外線反射顔料に依存しない。6カ月の試験では、強い日差しでも性能の劣化はみられなかった。

実験で使用されたポリマーコーティングタイルを手にするチアラ・ネト(Chiara Neto)教授(左)
チアラ・ネト(Chiara Neto)教授は、「湿潤気候が理想ですが、夜間に湿度が上がる乾燥・半乾燥地域でも露は発生します。これは降雨の代替ではなく、限られた水源を補完するものです」と述べている。
デューポイント・イノベーションズ社は、通常のローラーやスプレーで塗布できる水性塗料としての実用化を進めている。同社のペルザーン・メータ(Perzaan Mehta) CEOは、「屋上を信頼できる水源に変えるエネルギー不要のソリューションです」と述べた。
同教授は、豪州の雨水利用システムを補完する技術になる可能性を示し、「涼しさを保ちながら真水を生み出す屋根を想像してみてください」と語った。

シドニー・ナノサイエンス・ハブ屋上にある実験装置
(出典:いずれもCSIRO)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部