オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)は6月4日、同大学の研究者らが量子コンピューターの壊れやすい量子情報を大きく乱さずにエラーを検出し、測定時間を3分の1に短縮する新手法を開発したと発表した。研究成果は学術誌PRX Quantumに掲載された。
量子コンピューターの実用化では、計算中に生じるエラーを検出・訂正する量子誤り訂正が大きな課題となる。今回の研究では、シリコン量子チップに埋め込んだアンチモン原子の原子核を対象とした。この原子核は8つの量子状態を持ち、量子情報を符号化できる一方、測定のために電子を出し入れすると原子核が不安定になり、別の状態に移る恐れがある。情報の符号化に使われるこうした量子状態は「シュレーディンガーの猫」状態と呼ばれ、研究チームは測定による擾乱を抑える方法を検討した。
この課題を分かりやすく示すため、UNSWサイエンティア教授のアンドレア・モレロ(Andrea Morello)教授は、暗く騒がしい部屋にある8つの箱の1つに隠れた猫を探す例えで説明した。従来法は各箱に水をかける操作を何度も繰り返し、最も多く鳴き声が聞こえた箱を推定する方法に相当する。しかし、繰り返すほど猫を驚かせ、観測対象そのものを変えてしまう危険がある。
新手法では、最初の「鳴き声」に相当する信号を得た時点でいったん推定し、その後は猫がいないと考えられる「空の状態」だけを調べる。実験では電子を原子から取り除く必要があるのは1回だけで、その後は空の状態だけを調べた。その結果、エラーの可能性を半分以下にし、総測定時間を3分の1に短縮した。研究チームは、この手法が量子誤り訂正に使われる「ミッドサーキット」測定を改善し、創薬、化学反応シミュレーション、金融ポートフォリオ最適化、機械学習向けのスケーラブルな量子コンピューター開発に役立つ可能性があるとみている。
筆頭著者でUNSW博士課程学生のアルイェン・ファールチェス(Arjen Vaartjes)氏は、適応的測定戦略により「正しい箱の中に猫を見つける」信頼度を99.61%まで高めたと説明した。同教授は、「量子誤り訂正は、壊れやすい量子情報を乱さずに繰り返し測定することに依拠しており、猫を怖がらせずに正しい箱を見つけることに相当します」と述べた。この手法は半導体量子ビットのほか、原子系や光子系にも応用できる可能性がある。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部