オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)は6月29日、同大学法学部の研究者が、宇宙での原子力利用の拡大に伴う安全性と国際的な統治の課題を論じた解説記事を公表した。
UNSW法学部の原子力法ポスドク研究員で、UNSW原子力イノベーションセンターのメンバーであるアート・コッテレル(Art Cotterell)博士は、NASAが2028年12月までに打ち上げを予定する火星探査計画「スペース・リアクター1・フリーダム」を「初の原子力推進による惑星間宇宙船」と位置付けていることを紹介した。NASAはまた、アルテミス計画のため、2030年までに月面へ小型原子炉を設置する計画も進めている。
宇宙で使われる原子力電源には、プルトニウム238の自然崩壊熱で発電する放射性同位体電源システムや、核分裂で得た熱を電力に変える原子炉がある。月では昼夜の周期が約29.5日で、夜が約2週間続くため、恒久的な月面活動には太陽光だけでは不十分とされる。原子炉で発電した電力により推進装置を動かせば、火星への飛行時間短縮や宇宙飛行士の宇宙放射線被ばく低減にもつながる可能性がある。
一方、同博士は、1978年にソ連の原子力レーダー海洋偵察衛星「コスモス954」がカナダへ制御不能のまま再突入し、放射性物質が約600kmにわたり拡散した事例を挙げ、宇宙のリスクは地球上のリスクに変わり得ると指摘した。打ち上げ失敗や運用終了後の廃止措置・処分も課題となる。
1967年の宇宙条約は宇宙への核兵器配備を禁じているが、原子力電源の利用自体は禁止していない。国連は1992年に「宇宙空間における原子力電源の使用に関する原則」を採択し、2009年には国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)と国際原子力機関(IAEA)が安全枠組みを策定した。ただし、いずれも法的拘束力はない。同博士は、各国が国連の原則と安全枠組みを一貫して実施し、必要に応じて更新・補完する国際協力を進めるべきだと強調している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部