オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は7月24日、CSIROの研究者らが、海水の化学的性質を変えて大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収・貯留する海洋本来の能力を高める「海洋アルカリ度向上」について、その仕組みと効果、大規模展開の可能性、安全性や社会的受容などの課題を解説した記事を公開した。
記事を執筆したCSIROのハリス・アンダーソン(Harris Anderson)氏、アンドリュー・レントン(Andrew Lenton)氏、マチュー・モンジャン(Mathieu Mongin)氏によると、海洋は石炭、石油、ガスなどの化石燃料の燃焼で毎年排出されるCO2の約30%を吸収する。海水は数百万年にわたり、岩石の風化や分解で生じたアルカリ性鉱物を取り込み、もともとアルカリ性を示す。しかし、この自然過程は気候変動への対処には遅すぎるという。

CSIROの研究者らによる海洋アルカリ度向上の実地試験
(出典:CSIRO)
海洋アルカリ度向上では、溶かした水酸化ナトリウムや、粉砕したケイ酸塩岩・炭酸塩岩を海水に加える。アルカリ度が上がると、海水中の溶存CO2がより多く安定した形態に変わり、海洋全体のCO2吸収量が増える。これまで沿岸で船舶や専用設備を使った小規模試験が行われたが、大規模に展開できるのかは分かっていない。海流、風、水深、季節条件の一見わずかな違いも吸収量を左右するため、それぞれの場所に応じた設計が必要となる。
初期の実地試験とモデル解析では、小規模な取り組みによるCO2除去が、周辺の保護区域に及ぼした測定可能な影響はほとんどなかった。室内研究でも、アルカリ度の小幅な上昇はオーストラリアの一部のコンブ類や藻類にほとんど、または全く影響しないと示唆された。一方、添加できる量の限界や、アルカリ性物質の種類によって異なる生態系への影響も指摘された。科学者らは、調査船インベスティゲーター号によるバス海峡での実地試験を提案しており、環境影響の特定と変化を測定する技術の向上を目指す。
地域社会はこの手法に警戒感を持ち、単に意見を求められるだけでなく、意思決定への参加や環境影響についての明確な情報を望んでいる。研究者らは先住民との協議も必要だとし、将来の取り組みでは、大気中の炭素除去の緊急性と厳密な研究、地域社会との実質的な対話との均衡が不可欠だと結論付けた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部