オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は8月6日、国際研究チームが希少な中性子星「マグネター」の超強力な磁場を利用し、一見何もない空間が光の振る舞いを変える量子効果「真空複屈折」について、初検出となる可能性のある観測結果を得たと発表した。研究成果は学術誌Natureに掲載された。

強力な磁場を持ち高速で回転する中性子星「マグネター」から放射される電波とX線が、極限環境における量子効果の解明に役立っている。提供/Pablo Garcia
真空複屈折は、量子力学の創始者の一人であるヴェルナー・ハイゼンベルクが約90年前に予言した現象である。ハイゼンベルクは、完全な真空にも瞬時に現れては消える「仮想粒子」が満ちていると考えた。極めて強力な磁場の下では、この仮想粒子の集まりが特定の仕方で光を屈折させ、真空複屈折を生じさせると予想されている。この現象の検出には、地球上で作られた磁場の1億倍を超える強さが必要となる。
スウィンバーン工科大学のマーカス・ローワー(Marcus Lower)博士らは、宇宙で最も強い磁場を持つマグネター「1E 1547.0-5408」(1E1547)を、米航空宇宙局(NASA)のX線偏光観測衛星IXPEで観測した。観測には国際宇宙ステーションのX線望遠鏡NICERと、CSIROが所有・運用するパークス電波望遠鏡「ムリヤン」も使用した。ムリヤンで得たデータは、同大学のスーパーコンピューター「Ngarrgu Tindebeek」で解析した。

CSIROのパークス電波望遠鏡「ムリヤン」
チームは、1E1547の回転に伴って電波の振動方向、すなわち偏光状態がどう変わるかを追跡した。その結果、磁軸と回転軸がほぼ一致し、地球からは磁極をほぼ正面に見る配置にあることが分かった。この配置は、真空複屈折の観測に適している。さらに、IXPEが捉えたX線は極めて高い偏光度を示し、その偏光方向は電波と同じように1E1547の磁場方向に固定されていた。チームはこの2点を、マグネター周辺で真空複屈折が作用していることを示す兆候とした。
同博士は「今後得られるデータと更新したシミュレーションがそろえば、約90年前にハイゼンベルクが始めた探究を、ついに完遂できるかもしれません」と述べた。追加データと改良したコンピューターシミュレーションにより、真空複屈折の信号とマグネター周辺で起きる他の過程を、より明確に区別できるとしている。

スウィンバーン工科大学のマーカス・ローワー(Marcus Lower)博士
(出典:いずれもCSIRO)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部