オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は9月9日、同機構の研究者らがヒアリの集団(コロニー)をより精密かつ環境に配慮して防除するため、RNA干渉(RNAi)と呼ばれる遺伝子サイレンシング技術を利用したベイト剤を研究していると発表した。
ヒアリはオーストラリアで最も被害の大きい侵略的外来害虫の一つで、農業、生物多様性、公衆衛生に深刻な影響を及ぼす。国内で抑制されずに拡散すれば、野生化した猫、野犬、キツネ、ラクダ、ウサギ、オオヒキガエルによる年間被害の合計を上回る可能性がある。RNAiは、細胞が必須タンパク質を作る際に使う遺伝情報を遮断できる自然な生物学的過程である。15年以上害虫管理に携わるCSIROのクマラン・ナガリンガム(Kumaran Nagalingam)博士は、相補的なRNA分子を導入してメッセンジャーRNAの指示を遮り、標的タンパク質の生成を防ぐ仕組みだと説明した。アリのDNAを恒久的に変えるのではなく、その機能を指示するメッセージを一時的に遮断するという。

クマラン・ナガリンガム(Kumaran Nagalingam)博士
RNAi技術を10年以上研究し、2022年からヒアリに取り組むCSIROのアモル・バーラト・ゴドケ(Amol Bharat Ghodke)博士らは、他種への影響を抑えるため、ヒアリに固有の遺伝子配列の短い領域を選び、相補的な二本鎖RNA分子を研究室で作製している。生殖、コミュニケーション、摂食、消化などを制御する複数の遺伝子断片を標的として試験し、一部では、より強く安定した効果が得られるかを調べるため複数を組み合わせている。さらに、遺伝子サイレンシングが生存、行動、生殖、発育に及ぼす影響を調べてきた。ゴドケ博士は「試験を重ねるたびに結果は改善しています」と話す。

アモル・バーラト・ゴドケ(Amol Bharat Ghodke)博士は10年以上にわたりRNAi技術の研究に取り組んできた。
社会性昆虫では、処理に用いる分子を集団全体へ届けることも課題となる。ベイト剤は環境への曝露に耐え、アリが巣に戻るまで消化器系内で安定した状態を保ち、他の個体へ受け渡されて摂取されなければならない。研究チームは安定した送達のため、CSIROが開発した特許取得済みのRNAi分子を使用しており、従来型の分子より高い効果を期待する。初期試験では有望な結果が得られたが、研究室外での試験にはさらなる研究が必要である。ナガリンガム博士は、適切な製剤が得られれば、手頃な価格の市販ヒアリ用ベイト剤として実用化できるとの見通しを示した。

CSIROの研究室でRNAiの餌に食いつくヒアリ。写真提供:アモル・バーラト・ゴドケ(Amol Bharat Ghodke)博士
(出典:いずれもCSIRO)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部