オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)は9月15日、同大学の研究者らが、学生が人工知能(AI)に思考を任せず判断力を育てられるよう、現地調査や口頭評価などを活用した大学の成績評価の見直しを提案したと発表した。論考は学術誌Humanities and Social Sciences Communicationsに掲載された。
NUSW芸術・デザイン・建築学部のジョン・カー(John Carr)博士、タニア・ラインバッハ(Tania Leimbach)博士、テマ・ミルスタイン(Tema Milstein)教授は、学生が生成AIで課題を仕上げると、考えを話し合って検証し、議論を比較し、自ら判断するという学習に欠かせない過程を省いてしまいかねないと警告する。カー博士は、完成した小論文や発表だけでなく、幅広く読み、証拠を問い、物事を関連付ける過程そのものが学習だと説明する。
3人は、情報を見極める(Discern)、他者やその考えと関わる(Engage)、複雑な状況や倫理的な影響を評価する(Evaluate)、独創的で厳密な成果を生み出す(Produce)という「DEEPスキル」を重視する。研究者らが教える環境マネジメント修士課程(MEM)では、現地調査や、展示会・イベントなどの共同活動を学習に取り入れている。MEMの一科目では学生がニューサウスウェールズ州南岸のユインの人々の土地を訪れ、現地で長老から学ぶ。筆記課題について科目担当教員との対話で質問に答え、自分の考えを説明するよう求められることもある。
研究者らは、監督下での試験や授業内での執筆も含め、学生が自らの思考を示す機会を増やすよう提案する。また、課題を学生自身の経験や現実の問題意識と結び付け、最終成果だけでなく、話し合いや振り返り、修正を通じて考えを発展させる過程も重視すべきだという。ラインバッハ博士は「AIを使うと、理解や判断力、専門性を時間をかけて育てる過程より、効率を優先したくなりかねません」と述べる。カー博士は、問うべきはAIが何を生み出せるかだけでなく、学生がその出力を理解し、問い、責任を持って使う判断力を身に付けたかどうかだと述べた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部