アジアの科学の先駆者たち:ゴキブリから抗菌微生物を発見、抗菌薬研究に貢献するカーン教授

2022年2月16日 AsianScientist

パキスタンのナヴィード・アーメド・カーン (Naveed Ahmed Khan) 教授は抗菌薬の研究、視野を広げることの価値、革新の文化の重要性について語る。

ナヴィード・アーメド・カーン教授

AsianScientist - ナヴィード・アーメド・カーン 教授は、広く分布する病原体に対する良い治療法を開発するために、20年にもわたり寄生性原虫であるアカントアメーバを研究してきた。 近年、彼は汚染された環境に住む動物から新しい抗菌微生物を抽出した。 2010年には、ゴキブリやイナゴから強力な抗菌微生物を発見したことで、世界中のメディアの注目を集めた。

カーン教授は、生まれ故郷のパキスタンから英国、米国、マレーシアでキャリアを積んできた。外国のいくつもの大学で働いた後、2010年にパキスタンに戻ってアガカーン大学で教鞭を執り、そこで医学生のための研究モジュールを開始し、2013年にパキスタンの「最優秀若手研究者賞」を受賞した。現在、彼は クアラルンプールのサンウェイ大学の生物科学部長である。

1. いくつも研究所を移り、それが科学の経歴に与えた影響はどのようなものでしょうか?

視野を広げるために探検をして、新しいやりがいを見つけなければならないと考えています。例えば、英国には、脳に感染し死に至らせるアメーバの問題はありません。パキスタンでは大きな問題なので、パキスタンに戻って初めてそのアメーバを知りました。

さらに、パキスタンのような国々は、地政学的に難しい時代を迎えています。パキスタンの最高の大学で勤務したとしても、孤島にいるような感覚になることがあります。科学は協働してうまく機能します。孤立状態ではうまく働きません。どこか別の国に移動したとしても、抗生物質についての研究がうまくできる場所であれば、効率性良く母国に貢献できます。

2. 西側諸国とアジアとでは、カリキュラム設定方法はどのように異なるでしょう?

英国の高等教育当局は、新しいプログラムやコースを自由に開発させてくれます。ただ、基準があります。その基準を満たすために必要なことを行います。しかし、マレーシアとパキスタンでは当局はとても厳しい方針を課します。例えば講義時間や実習時間についての指針が多すぎるのです。

学生に何時間学ばなければならないと命令するのではなく、院生たちから得たいと望む特質を強調すべきです。学生たちに問題を解決するよう述べることにより、学生たちを教育すべきです。解決に10時間かかったとしても、それでいいのです。学生たちは、自分自身の方法で解決することを学ぶべきです。

私がロンドン大学の生物医学プログラムで理学士号を取得したとき、6ページの計画書を提出する必要がありました。しかし、ここマレーシアでは、私が同様のプログラムに提出した計画書は460ページでした!誰が460ページも読みますか?

当局には厳格な指針を出す理由があるのは分かっていますが、人々が理解しやすいものにし、カリキュラムを変更するよう検討する必要があります。このような官僚的なプロセスは、カリキュラムの進化を妨げます。人々は課程を進むにあたり、事務処理に時間を費やすよりもむしろ研究したいと思うでしょう。

3. あなたは2011年に、イナゴやゴキブリから有望な抗菌成分を発見したと発表しました。昆虫の神経系からの粗抽出物が、実験室培養でほぼすべての大腸菌K1と抗生物質耐性菌黄色ブドウ球菌 (MRSA) を殺したことを発見しました。これらの抗菌化合物の現在の状況はどうですか?

私たちはすでに、これらの殺菌性分子のうち、イナゴで7つ、ゴキブリで20を特定しています。 次のステップは、これらの分子を合成することです。

私たちは範囲を広げ、ヘビやワニを対象としました。ヘビは齧歯動物を食べますが、齧歯動物は細菌だらけです。コブラの血液に興味深い抗菌特性が見られました。

ワニは腐った肉が大好きで、重金属で汚染された環境に住んでいるのですが、まだがんを発症しているものは見つかっていません。これは興味深いことです。ワニを解剖したところ、その血液には抗菌特性と抗がん特性が含まれていることがわかりました。私たちはここマレーシアで、この方向に沿って研究を進めます。私たちの研究室は、アジアで唯一、試験管内(in vitro)のヒトの血液脳関門モデルを持っています。

4. 中国、インド、東南アジアが経済大国として台頭してくるにつれ、アジアの科学者の発表も取り上げられ、影響も与えるようになってきています。アジアの科学の進歩に与える最も大きな脅威は何だと思いますか?

正直なところ、私たちアジア人は、まだ先進国の二番煎じの部分が大きいと思います。確かに、私たちは先進国から発表方法その他について学んだところは大きいのですが、私たちは革新的であるべきなのに、そうではありません。

ここパキスタンでは、学生は2つの生活を送っていると思います。文化と宗教に囲まれて家にいる時と、仕事をしている時です。学生たちには革新的で、批判的に考えるようになり、世界に飛び出してほしいのですが、学生たちは家では、親や教師に質問すべきではないとされています。とても難しいことです。

私たちにはイノベーション文化がないと考えます。それが大きな障害となっているのです。問題に対して自分で解決策を考えることができないのです。研究を真似ることは上手かもしれませんが、iPad は米国で考えられたものですし、代替技術も米国産です。真似ることがこの地域の発展を妨げているのです。

たとえ私たちが経済の世界的リーダーになったとしても、それは一時的なものでしょう。英国や米国のような他の先進国はイノベーションに焦点を合わせており、良いソリューションを提供しているからです。マレーシア政府は、市場から革新的な製品を選ぶマレーシアイノベーションハブなどを開始しました。それは良い一歩ですが、草の根レベルでイノベーションを育むために私たちは何をしているのでしょうか。

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