国際科学協力の推進と科学外交の展開―②ユネスコによる科学分野での取り組み

2023年2月21日

樋口義広(ひぐち・よしひろ):
科学技術振興機構(JST)参事役(国際戦略担当)

1987年外務省入省、フランス国立行政学院(ENA)留学。本省にてOECD、国連、APEC、大洋州、EU等を担当、アフリカ第一課長、貿易審査課長(経済産業省)。海外ではOECD代表部、エジプト大使館、ユネスコ本部事務局、カンボジア大使館、フランス大使館(次席公使)に在勤。2020年1月から駐マダガスカル特命全権大使(コモロ連合兼轄)。2022年10月から現職

設立から今日まで、ユネスコは、科学分野における国際的な議論や取り組みに様々な形で積極的に参加、貢献してきた。

国際科学協力へのユネスコの積極的な参加と貢献

ハンガリー科学アカデミーがユネスコ、ISC(国際科学会議)、AAAS(米国科学振興協会)と共同で1999年に開催した「世界科学会議」を前身として2年に1回開催される「世界科学フォーラム(WSF)」にユネスコは共催者として参加している。昨年12月に南アフリカで開催された(アフリカ大陸での初開催)第6回WSFには、シャミラ・ネイル・ベドゥエル自然科学局担当事務局長補ほかユネスコ関係者が参加した 1

ユネスコはまた、国連経済社会委員会が主催するSTIフォーラム(Multi-stakeholder Forum on Science, Technology and Innovation for the Sustainable Development Goals)にも積極的に参加、貢献している 2他、議長国インドネシアの下での昨年(2022年)のG20プロセスでは、科学に関してメンバー国の学術組織の代表が参加して提言するエンゲージメント・グループであるサイエンス20(S20)に、ベドゥエル事務局長補が参加し、科学研究とオープンサイエンスへの長期的な投資等を呼びかけている 3

第二次大戦後の科学外交の展開

創設以来、ユネスコが科学分野での多国間外交と国際協力を積極的に推進してきた足跡については、ユネスコ自身がそのいくつかの具体例を説明しているが、その説明ぶりにはこの分野での実績に関するこの組織の少なからぬ自信と誇りが感じられる 4

戦後初めての大規模な国際科学協力の事例となったCERN(欧州原子核研究機構)がユネスコの後援の下で(ユネスコが設立条約批准書の寄託先となった)、ジュネーブ郊外に設立されたのは1954年のことである。「CERNの誕生は、ユネスコによる科学と科学外交における最初の大規模なイニシャチブの一つであるとともに、第二次大戦による破壊の後で原子力エネルギーの平和的利益を追求する外交的な回答であった」と説明される。

戦火を交えた国々を和解させ、科学的な卓越を求める協力へと導く試みとして、国際的な科学研究所の設立というアイデアが浮上したのは、戦後ほどなくのことであった。米国の物理学者ラービ(Isidor Isaac Rabi、1944年ノーベル物理学賞受賞、アイゼンハワー大統領の科学顧問を務めた後、ユネスコに米国代表として派遣された)は、科学を戦争から再生中であったヨーロッパを鼓舞し統一する方法とみなし、1950年のフィレンツェでの会議で地域研究所の設立を呼びかけた。それから4年後、彼の提案はCERNとして実現した 5

CERN(欧州原子核研究機構)

同じ時期、第1回原子力平和利用国際会議(いわゆる「平和のための核」会議)がジュネーブで開催され(1955年)、ソ連の多数の物理学者が西側で開かれた科学会議に初めて参加する機会となった。「東西分断」という当時の歴史的な文脈において、CERNを1つの「青写真」として、世界の科学者による国際協力を推進することがユネスコの主要ミッションの一つとなった。

当時、緊張関係にあった、あるいは公式な関係が存在しなかった国々の間に科学協力を通じて関係を築き、強化するチャンネルを提供することで、ユネスコは科学を通じた世界の媒介者となり、国際協力を通じて科学的卓越を求める科学外交の道筋が切り開かれた。ユネスコが、大戦後の複雑で機微で、かつ断絶された国際環境の中で、世界の人々をつなぐ普遍的な重要性をもったテーマとして立ち現れた科学を捉え、国際的な科学外交の舞台を提供し、また自らもアクターとなり国際協力を積極的に推進したことは特筆すべき歴史事実といえよう。

ユネスコを訪問したソ連の宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリン(1963年)
© UNESCO

ユネスコによる科学外交の事例としては、CERN設立の他、トリエステの国際理論物理学センター(ICTP)の設立 6、「世界土壌図」の作成 7、人間と生物圏(MAB)計画の立ち上げ 8、中東における実験科学及び応用のための放射光国際センター(SESAME)の設立 9、「オープンサイエンスに関する勧告」の策定をはじめとする、持続可能な未来のためのオープンサイエンスに向けた国際協力の推進(後述)等が挙げられている。

世界土壌図(FAO/UNESCO)

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