世界最先端インフラを活用、量子科学の新たな価値の創出を通じて国際人材を引きつける:量子科学技術研究開発機構(QST)小安重夫理事長に聞く

2023年10月23日 聞き手 科学技術振興機構(JST) 元参事役(国際戦略担当) 樋口 義広

国際頭脳循環シリーズの今回のインタビューでは、量子科学技術研究開発機構(QST)の小安重夫理事長に話を伺った。

量子科学技術研究開発機構(QST)小安 重夫(こやす しげお)理事長

量子科学の新たな価値の創出と提供を通じて持続可能な未来社会の実現に貢献

── 今年4月に理事長に着任され、同じタイミングで向こう7年間の新たな中長期目標・計画が始まりました。QSTの現状と理事長として注力されている点についてお聞かせください

量子科学技術研究開発機構(QST)は、量子科学技術研究開発を推進するために、旧放射線医学総合研究所(NIRS)と、原子力研究開発機構(JAEA)の核融合部門、量子部門、マテリアル部門を前身として、2016年に設置された国立研究開発法人である。その第1期を率いた平野俊夫前理事長は、"量子科学"を軸に、既存の研究の発展に加えて、異なる分野の研究をつなぎ、融合したプロジェクトを立ち上げるなど、新たな科学の展開を推し進めてきた。このことは新しい組織の大きな功績となった。

私はその大切なバトンを受け継いでいる。平野前理事長とは、研究者としての専門分野が同じ免疫学であることから、旧知であり、私のQSTへの着任とは関係なく、以前から苦労された話についていろいろ伺っていた。前理事長が課題とされたことに取組み、成果につなげることが私の役割だと思っている。量子科学技術の研究開発を通じて新たな価値を創出し、社会に提供することで、経済、社会、環境が調和した持続可能な未来社会の実現に貢献していくことを第2期の目標に掲げている。

4月に着任後、国内全7拠点(六ヶ所、仙台、那珂、千葉、高崎、木津、播磨)、国際拠点(フランスITER) を訪問して、研究現場を見学するとともに多くの職員との意見交換を重ね、世界最高水準の研究基盤施設を数多く有することに大いに感銘を受けた。前職の理化学研究所では、ドイツのマックス・プランク研究所を目指すとしてきたが、QSTは、さまざまな大型研究施設を有する複数の研究センターで構成し研究開発を推進する、ヘルムホルツ協会型の研究所を目指すべきだと考えている。最先端研究基盤施設を活かして、自分たちで素晴らしい科学研究を行うだけでなく、世界中の研究者たちにも活用してもらう、あるいは共同研究することによって、研究成果の最大化につなげることを目指したい。

具体的な取り組みとして、QSTでは、量子科学技術等による持続可能な未来社会の実現に向けて、量子技術イノベーション研究、量子医学・医療研究、量子エネルギー研究、量子ビーム研究の4つの分野で研究開発を推進する。量子イノベーション研究では、量子技術基盤拠点と量子生命拠点を中心に、量子科学技術によるイノベーションの創出を目指す。量子医学・医療研究では、次世代の医療技術による健康長寿社会の実現を目指す。量子エネルギー研究では、持続可能な環境・エネルギーの実現に向けたフュージョンエネルギー開発に取り組む。量子ビーム科学研究では、量子技術の基盤となる量子ビームの発生・制御・利用に向けた開発と高度化に取り組む。QSTが誇る世界最高水準の研究施設・装置からなる量子科学技術基盤の整備、活用、共用を進め、QST内での連携、国内の大学や他機関との連携、国際連携により研究開発を推進するとともに、次世代を担う人材の育成に取り組む。

千葉市稲毛区にあるQST本部正門(提供:QST)

世界最高水準の量子科学技術基盤の例として、ここ千葉地区にある医療用重粒子加速装置(HIMAC)がある。世界に先駆けて実運用に成功した炭素イオンの重粒子線によるがん治療は、現在、保険適用の対象も拡充され、世界的にも注目されている。実は、この加速器は、医療用であるとともに、核物理の研究者にとっても非常に魅力的な実験装置である。理化学研究所のRIビームファクトリー(RIBF)注1)が、不安定核を対象とする世界最高水準の加速器だとすると、HIMACは、安定核を対象とする世界最高水準の加速器である。物理研究者は、この加速器を非常に信頼し、素晴らしい装置と評価している。医療用に開発された装置が物理分野でも高く評価され、大いに貢献している。これこそ、国立研究開発法人として目指すべき「研究成果の最大化」の好事例と考えている。QSTは、世界に類をみないとても優れた研究開発基盤施設・装置を数多く有している。それらを最大限活用していきたい。

量子科学技術を軸にさまざまな異なる背景の研究がつながるQSTにおいて、その新しいシナジーにより研究成果を最大化すること、そのために全力で支援することが私の使命である。一例となるHIMACは125m×65mと非常に大型な装置であり、現在、病院施設内に設置できる20m×10mまで小型化し、性能も向上させた、いわゆる「量子メス」の開発と普及を目指している。「量子メス」は、フュージョンエネルギーの研究開発に取り組んでいる部門の超電導コイルの技術と、木津の研究所で開発しているレーザー加速という新しい技術を組み合わせることで加速機を小さくすることができる。イオン源として今は炭素を使っているが、ここ千葉地区ではヘリウムやネオンも出せるマルチイオン源を開発している。まさにQSTという組織でのシナジーだからこそ実現できると思っている。

このように研究基盤の開発や高度化、新たな施設や装置の開発自体が、非常に重要な取組みだと考えている。特に、量子ビーム科学研究では、量子科学技術の基盤となる研究を推進したい。研究者はもとより技術者も非常に重要な役割を担う。技術者に対しても適切に評価し、後押ししていく。

さらに、既存の研究を発展させることに加えて、新たな研究分野を創出していくことも重要だ。平野前理事長はQSTで量子生命科学という全く新しい分野を創出、千葉地区に量子生命科学研究所を設置し、研究を推進する体制を整えるとともに、量子生命科学会も立ち上げた。さまざまな専門分野を背景にもつ若手研究者が数多く参加し、非常に面白い魅力的な研究の展開が期待される。

基盤技術の開発、高度化、シナジーによる価値の創出、新たな研究分野の開拓は、いずれも研究成果の最大化には必須である。そのためには異なる分野の交流が重要である。コロナ禍で開催できない時期が続いたが、3年ぶりに今年8月に機構全体での研究交流会を開催、多くの研究者が集まり、口頭発表やポスターセッションなどを行った。自らの研究展開に異なる視点を取り込むとともに連携による研究の発展について活発に意見交換を行っており、改めて、QSTの今後の研究の発展が非常に楽しみになった。

着任してまだ半年であるが、理事長として、QSTへのこのような思いを職員の皆に伝え、今後、職員が全力で研究に取り組み、研究成果を最大化できる体制を整えて、支えていきたい。

重粒子線がん治療装置HIMACの概要(QST「重粒子線がん治療装置HIMAC」紹介資料より、提供:QST)

インフラ更新を通じて技術を伝承する

研究基盤施設について最も重要なことは、施設の更新を通じて技術を伝承していくことである。伊勢神宮は、20年ごとに社殿を造り替えて神座を遷す「式年遷宮」によって、宮大工の古くからの優れた技術が今に至るまで継承されている。1,000年以上前の人たちが考え出した技術伝承の素晴らしいアイディアだ。同様の考え方が研究基盤施設についても必要だ。日本の大型研究基盤施設には、開発、完成後30~40年を経たものが多く、更新しないことで技術が継承されていない。

トカマク型超高温プラズマ発生実験装置JT-60注2)は、1987年に最初のプラズマの発生に成功、その後、2008年に運転を終了している。その後、開発を進めてきた超伝導プラズマ発生実験装置JT-60SA注3)は、今年、最初のプラズマを予定しているが、すでに30年以上を経ており、人材を育てるという点からはギリギリのタイミングである。日本のさまざまな大型研究基盤施設で同様の状況になっていると思われる。

兵庫県の播磨にある大型放射光施設のSPring-8の完成から25年、現在、仙台に3GeV高輝度次世代放射光施設となるNanoTerasu注4)を設置整備、次年度より運用予定としている。加速器、レーザー、放射光に関連する技術が継承され、将来の大型放射光施設を開発設置する時にはその技術を活用することが可能となるだろう。

研究施設に対しては、老朽化対策の必要性について問われることが多いが、本質的な課題の解決とはならない。世界最高水準を目指し、常に技術の開発研究を進め、定期的に施設を更新していくことが、科学技術力の維持向上のためにも何より重要なことである。日本の半導体技術の衰退はその悪い事例である。国に対して技術の継承の必要性、そのために必須の定期的な大型研究施設の更新については強く訴えており、ぜひ真剣に考えてほしいと思う。

研究環境の国際化への取り組み

── 研究環境の国際化に関する基本的な考え方と取り組みについて教えてください

まず、国際化という言葉自体が非常に日本的だと思う。科学については、優れた研究をしている魅力的な研究者や組織のもとに世界中から人が集まり交流し、さらに研究を発展させている。そもそも国という概念はなく、国際化は当たり前のことだというのが私の基本的な考え方である。

ただし、外国の研究者が家族と一緒に日本に来る時に、その生活をどうやって支えるか、子弟が通いやすい学校をどうするか、組織内を全て本当にバイリンガル環境にできるのかなどの点でまだ大きな障害があると感じている。前職の理化学研究所では、所内の公用語を英語とし、文書などについては基本的に全て英語、日本語のバイリンガルにしたが、それでも、日常的に外国人研究者が事務などと全て英語でやり取りをするということはなかなか難しかったのは事実である。QSTは、日本語のみの文書も多く、同様の課題がある。そもそも政府、官公庁での基本言語が日本語のみであり、その内容を外国人に伝える時に非常に苦労する。ただ、このような問題を除けば、科学は万国共通であり、科学における共通言語は英語なので、研究者にとって国際化というのは当然のことだと思っている。

現在、QST全体で約1,300人の職員が常勤として在籍しているが、そのうち外国人は約50人で、非常に少ない。過去7年間に任期付きのポスドクなどとしてQSTに在籍した約270名のうち2割強は外国人であり、そのほか、短期的な来訪者も多く受け入れてきている。過去3年のコロナの影響で、現在は、かなり限定的になってしまったものの、QSTに魅力を感じる外国人研究者は多く、今後は回復すると考えている。

千葉市稲毛区のQST量子生命科学研究棟

── アウトバウンドの人の流れについて、研修や研究のために外国にQSTの研究者を送るような仕組みはありますか

QSTは国際共同プロジェクトとなるITER核融合実験炉計画注5)の日本国内機関であり、職員が建設地のフランスのサン・ポール・レ・デュランスで活動しているほか、国内ではBA(幅広いアプローチ)活動を推進しており、人的交流も活発である。その他にも、IAEA関連で、放射線防護について国内での中核施設になるなど、国際的な活動を進めている。

加えて、QSTでは、平成29年度、QST国際リサーチイニシアティブ制度を創設し、量子科学技術分野における世界を牽引する研究成果の創出及び国際的に活躍できる若手人材の育成を目的として、海外のトップレベル研究者との交流を支援している。2020年度には、新型コロナウィルス感染症の影響により、海外との往来が困難となったことに対して、リモートアクセスのための通信基盤を整備、海外からの遠隔実験の運用を開始、新たな研究交流に発展させている。また、往来可能となった2022年からは、現在取り組んでいる、または、将来取り組むべき科学技術の研究開発及び、機構の業務運営に寄与する高度な知識の取得を目的に、海外研修員派遣制度により職員を海外の研究機関、大学、国際機関等に派遣している。

しかし、国際共同研究のために外国と往来、交流するのは当然のことで、自身の経験から、数年外国に滞在し、研究活動に加えて現地での文化に接することが本来、一番大切なことであると思う。若い時に、サイエンスだけではなくて、異なる文化に触れるために外国に行ってほしいというのが私の本音である。特にアメリカやヨーロッパには、いろいろな国からさまざまな人が集まっていて、そこに行くだけで何カ国もの人と知り合えることはとても貴重な機会になると思う。

私はアメリカに8年いたが、自分の研究人生ではそのことが一番大きな財産となっていると思っている。日本に帰ってきてからは、学生にもとにかく海外に出ていくことを推奨してきた。実際に行ってみないと分からないことがたくさんある。その点、QSTでいろいろな人との国際的な交流を行うことはもちろん重要だが、個々人がQSTに来るよりも前の段階でもっと外国に出ていって、文化を吸収し、そこで仲間をつくることが重要だ。培ったネットワークは、その後の研究活動、人生において大きな支えになる。残念ながら、今の日本では、その部分があまり大切にされていないと感じている。

昨今、国際化の指標として国際共著論文を増やすことがすごく強調されているが、共著論文を書くこと自体が目的なのでなく、より重要なことは、主要な国際会議で求められる人材になることである。論文に名前が掲載されることに過剰な価値を見出すのではなく、本質的な意味で国際的な研究者として認知されることが重要である。もちろん研究成果は重要だが、若い時期に外国の研究者と知り合い交流することで、その後も常に切磋琢磨、連携できる関係を築けることが大事だと思う。そういう意味で、組織に長期的なポジションを得る前に、外国に行って経験を積んできてほしいと願っており、その点ではぜひ大学にも在学生や卒業生の送り出しを頑張って欲しいと思う。

また、国内での頭脳循環も非常に重要だ。QSTから大学の職への転出は喜んで送り出したいが、大学側も、同様に優秀な人材が研究機関に来ることを後押ししてほしいと思う。招聘はするが、転出はさせないというのでは国力としての科学技術は衰退する。これは文化的な問題でもあり、かつて日本学術振興会(JSPS)で特別研究員制度設計に携わった際には、PDになる時には、研究室を移らなければならないという規則にした。本来であれば、大学も移ることまで求めたかったが、さすがに反対意見が多く実現できなかった。外国の例に鑑みても、日本国内の人材の流動性を高めることは重要だと思う。

世界最高水準の研究施設・装置を活かした研究成果を創出、優れた人材を世界中から引きつける

QSTの小安重夫理事長:世界最高水準の研究施設・装置を活かした研究成果を創出、良い人材を世界中から引きつける

── 文部科学省は2024年度から、次世代の人工知能(AI)開発などに携わるトップ人材や若手研究者に年2000万円、大学院生に年600万円を支給する制度を設けると報じられています。今は世界中で優秀な人材の取り合いになっていて、そのためには何でもするという感じになりつつあります

高待遇で優秀な人材を招聘するというのも確かに一つの手段ではあるが、やはり他ではできない素晴らしいサイエンスが展開できるということが研究者にとっては何よりの魅力である。良いサイエンスができるところに人が集まり、人が集まれば良いサイエンスが進むというニワトリと卵の関係ではないか。良いサイエンスができる環境をどう作るかが我々の仕事だと思っている。

研究者を引きつける世界最高水準の基盤装置の役割の事例として、QSTの那珂研究所に設置されているJT60SAが挙げられる。日本と欧州が共同で進めるトカマク型超伝導プラズマ発生実験装置であり、これはフランスに設置開発しているITERよりも強力なプラズマを発生できると期待されている世界で唯一無二の装置である。プラズマ科学に取り組む研究者にとっては非常に魅力的であることは言うまでもない。このような施設・装置を開発していくことが世界中から優れた人材を引きつける大きなきっかけとなると思っている。

また、仙台に設置整備をしている3GeV高輝度放射光施設のNanoTerasuも然りである。最先端の施設・装置でのみ実現できる研究開発は必ずあり、日本人だけでなく、外国人にとっても非常に魅力的である。そこで創出される優れた研究成果は、さらに研究者を引きつけ、新たな人材が参入するという循環につながる。QST の研究基盤施設・装置は基本的に外部に開放しており、こうした好循環を生み出し、維持発展させていくことが私の役目だと思っている。

── 既存の先端インフラを積極的に活用し、また新しいインフラも作って、いい研究をして、その魅力をアピールし、外からいい人を引き寄せて循環をつくる、ということでしょうか

その通りだ。

ダイバーシティーとアウトリーチの重要性

── 国際化とは直接関連はないかもしれませんが、ジェンダーバランスのような問題についてはどのようにお考えでしょうか

日本全体の課題でもあるが、QSTでも女性の比率が低いことが度々指摘されている。必要な取り組み、支援を行い、改善をする必要があると考えている。ダイバーシティーの本質は、どうすれば、職員のみなさんにとって、男性にとっても、女性にとっても、あるいは、日本時にとっても、外国人にとっても、働きやすい職場にできるかという点である。皆、求めるものが少しずつ異なり、具体的に何をどのように最適化していくかは難しいが、なるべく多くの意見に耳を傾け、取り組んでいきたい。

また、QSTでは、非常に優れた成果を創出し、特筆すべき取り組みを進めているにもかかわらず、自らアピールすることなく、謙虚な姿勢を貫いていることが多いと感じている。QSTの研究活動が適切に評価されるためにも、国内、国外問わず、積極的にアピールするアウトリーチ活動にも今後しっかり取り組んでいきたい。

外部と積極的に連携して研究結果の社会実装に貢献する

── 最新の研究成果をどう社会的なインパクトにつなげるかという点に関して、スタートアップのような事業化についてどのようにお考えでしょうか

QSTとして、社会実装に向けた取り組み、スタートアップを支援する制度がある。一例として六ヶ所研究所で、海水や廃液からリチウムだけを回収する技術を開発した研究者に対して、スタートアップ支援をしている。また、フュージョンエネルギーに重要な元素であるベリリウムを精錬する新しい技術を開発し起業した研究者もいる。QSTとして、そういう挑戦に対して、できるだけサポートしている。

ただ、私個人の意見としては、スタートアップに向いている組織は大学であって、研究機関ではない。研究機関として、研究者の目標は研究成果の創出であり、社会への還元が求められるものの、必ずしも起業することが全ての研究活動の目的にはならないと考えている。むしろ、企業の視点での価値を見出すこと、共同研究での貢献などが大切となるのではないかと思っている。

最近、社会的にも大きな話題になっているアルツハイマーの治療薬についても、どの段階で患者に投与するかにより、その効果は大きく違ってくる。早期であれば効果があるが、ある一定の時期を過ぎた場合には、効果は上がらないことが分かっており、症状の正確な診断を可能にするバイオマーカーが不可欠である。QSTで開発している新しいPET(positron emission tomography陽電子放出断層撮影)装置や試薬は、様々な神経疾患における、タウやαシヌクレイン、β-アミロイドなど、疾患に関連するタンパク質の蓄積部位と量を計測可能とすることから非常に高く評価されている。このPET研究は、直接の治療法ではないが、治療方針を決めるための診断には非常に重要である。

多くの製薬会社がコンソーシアムをつくり、QSTで開発しているイメージング試薬をバイオマーカーとして、薬の評価に用いるという取り組みが始まっている。QSTが自ら企業活動行うのではなく、製薬会社のコンソーシアムと連携することで、多大な社会貢献ができる事例であり、われわれが大きく貢献できる分野となると思っている。

QSTの小安重夫理事長(右)と聞き手の樋口義広氏

インタビューは2023年8月30日、千葉市稲毛区のQST本部にて実施
聞き手:樋口義広・JST参事役(当時)
(編集:曹暉 客観日本編集長)

  1. 注1)RIビームファクトリー(RIDF)は、ウランまでの全元素の不安定原子核を発生し、それらの性質を調べる装置。世界でも珍しい、複数のサイクロトロンを並べた「多段式」の加速器で、最終段階に位置する加速器SRCは世界初、総重量8,300トンで世界最大、世界最強の加速器である。
  2. 注2)JT-60は、日本最初の磁場封じ込め型核融合実験装置。日本原子力研究所(JAERI)が1985年から運用した。「JT」はJAERI Tokamak、「60」は計画当初のプラズマ体積60立方メートルに由来する。
  3. 注3)JT-60SAは、フュージョンエネルギーの早期実現に向けてプラズマ実験等を行う世界最大の超伝導トカマク装置。日本と欧州で分担して制作した機器を那珂研究所で組み立てを完了。高さは約16メートル、重さは約2600トンになる。
  4. 注4)次世代放射光施設整備開発センター、いわゆるナノテラス(NanoTerasu)は、仙台で官民が協力して建設・整備中の3GeV高輝度放射光施設。高輝度の軟X線を特徴としたナノレベルの物質観察を可能にする共用施設。量子マテリアルや生命科学、創薬開発など多様な分野での利用が期待される。
  5. 注5)2005年にフランスのサン・ポール・レ・デュランスに建設決定、2025年の運転開始を目指して、日本、欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インドの7極により進められたている国際熱核融合実験炉。

小安 重夫(こやす しげお):

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)理事長

1978年東京大学理学部生物化学科卒業。1981年東京都臨床医学総合研究所研究員。1983年理学博士号取得。1988年よりハーバード医科大学ダナ・ファーバー癌研究所のポスドク、助手、助教授、准教授を経て、1995年慶應義塾大学医学部教授。2013年理化学研究所統合生命医科学研究センター免疫細胞システム研究グループディレクター。2014年統合生命医科学研究センター長。2015年より理化学研究所理事、研究担当、総括担当として幅広く研究を俯瞰。2023年4月より現職。


<QST概要>

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)
「量子科学技術等による持続可能な未来社会の実現する」という基本目標のもと、量子技術イノベーション研究、量子医学・医療研究、量子エネルギー研究、量子ビーム研究を中心に研究を推進。日本における量子科学技術研究の中核を担う研究機関である。

QSTホームページ: https://www.qst.go.jp/

【国際頭脳循環の重要性と日本の取り組み】

国際頭脳循環の強化は、活力ある研究開発のための必須条件である。日本としても、グローバルな「知」の交流促進を図り、研究・イノベーション力を強化する必要があるが、そのためには、研究環境の国際化を進めるとともに、国際人材交流を推進し、国際的な頭脳循環のネットワークに日本がしっかり組み込まれていくことが重要である。

本特集では、関係者へのインタビューを通じて、卓越した研究成果を創出するための国際頭脳循環の促進に向けた日本の研究現場における取り組みの現状と課題を紹介するとともに、グローバル研究者を引きつけるための鍵となる日本の研究環境の魅力等を発信していく。

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