デング熱との戦いは、ホリスティックアプローチを必要とする。ワクチンによる予防接種とコミュニティ主導のイニシアチブを組み合わせれば、デング熱を予防できる。(2025年1月14日公開)
ワクチン接種は、現在でも疾病の抑制に最も効果的な公衆衛生対策の1つである。マラリアから麻疹に至るまで、これらはかつては脆弱な集団の多くの命を奪っていた疾病であったが、ワクチン接種の継続は、これらの疾病による死亡率を効果的に減らすことができた。事実、ワクチン接種は1974年以降の乳児死亡率の低下の約40%に貢献したと推定されている。しかし、ワクチン躊躇や誤情報は、不用意にも麻疹などかつては抑制されていた病気を再流行させてしまった。このため、ワクチン接種率を高め、公衆衛生を保つ教育が今でも必要なのは間違いない。
デング熱は蚊が媒介する病気である。熱帯病から世界的に大きな疾病負荷へと変化し、ワクチンで予防が可能ではあるが新たな脅威として注目されている。2023年、世界保健機関 (WHO) はこの変化に注目し、2024年前半には東南アジア全体でデング熱症例が急速に増加したことを大きく取り上げた。
デング熱の管理は、従来、個人の予防対策、媒介生物抑制戦略、地域社会の熱心な活動を組み合わせて行われてきた。蚊の繁殖地を破壊する噴霧作戦やワールド・モスキート・プログラムのボルバキア法などは、ある程度の効果を見せているが、現在、人々はこの病気の急速な拡大を必死で食い止めようとしている。
武田薬品のインド・東南アジア地域責任者であるディオン・ウォーレン (Dion Warren) 氏と同地域の医療担当責任者であるチュー・ベン・ゴー (Choo Beng Goh) 博士はAsian Scientist Magazine誌に対し、武田薬品がデング熱の予防、管理、抑制に対する包括的かつ協力的なアプローチを通じて、この世界的な健康上の脅威に正面から取り組んでいる様子を語った。
ゴー博士:デング熱を拡散させることで知られるネッタイシマカの繁殖地が拡大しているのですが、これは気候変動の影響が強くなりつつあるためです。私たちは気候変動に対処しなければなりません。気温の上昇と気象パターンの変化により、従来デング熱が一般的だった熱帯地域以外にも蚊が見られるようになりました。デング熱はもはや熱帯地域に限定される病気ではなく、以前は見られなかった国々でも発生が記録されています。無計画で急速な都市化も大きな要因となっています。水の供給が不安定な地域の人々は、水を不適切な方法で貯めることがあります。また、適切な廃棄物管理システムがなければ、蚊は捨てられたゴミの中で容易に繁殖するでしょう。
デング熱の抑制は複雑な問題となってきています。地域社会や個人による自己防衛策だけでは、特に人口密集地域での流行抑制には限られた効果しかありません。ワクチンなどの革新的なデング熱抑制方法を採用して既存の統合管理方法を強化し、従来の方法では限界に直面しそうな地域での予防を拡大する必要があります。ワクチンは、人工知能 (AI) などの技術的進歩とともに、デング熱抑制に不可欠になりつつあります。
AIは監視システムを強化し、流行を予測し、ビッグデータを分析して効率性の高いリソースを割り当てることができます。それにより、デング熱への対応を時宜よく、的を絞ったものにすることができます。イノベーションと技術の進歩が効果を発揮するには、強い提携と協力が必要です。デング熱を効果的に管理するには、政府、医療従事者、地域や世界の組織など、すべての関係者をまとめ、調和した持続可能な結果を確保すべきです。
デング熱を媒介することで知られるネッタイシマカ
ゴー博士:デング熱ワクチンは、デング熱に苦しむコミュニティに大きな影響を与えると考えられます。デング熱にかかったことがない人だけでなく、デング熱の経験がある人も守り、疾病負担を軽減し、入院率を下げ、流行による経済的負担と医療的負担の両方を緩和するのに役立ちます。
したがって、現在の媒介生物管理方法を安全で効果的なワクチンで補完することで、デング熱に対する保護を強化することができます。今年5月、WHOの戦略諮問委員会 (SAGE) は、デング熱の負担が大きく、感染力が高い国に対し武田薬品のデング熱ワクチンを導入し、公衆衛生への影響を最大化するよう推奨しました。世界保健機関がこのような支持をしているということは、デング熱の世界的な脅威に対し、ワクチンは広範かつ統合された戦略の一環であり重要であることを示しています。
ディオン氏:安全で効果的なワクチンはデング熱対策に不可欠ですが、予防、疾病教育、意識向上、監視も含めた広範な統合戦略にワクチンが組み込まれていることも、同様に重要です。関係者たちが協力して、最も必要としているコミュニティがワクチンを利用できるようにすることも重要です。これは、WHOの推奨事項に沿って、適切に設計されたコミュニケーション戦略とコミュニティとの密接な関与を伴っている必要があります。
ディオン氏:このデジタル時代において、ワクチン躊躇を高める可能性のある誤情報の拡散は、非常に現実的な問題です。たとえば、コロナ禍の間に誤情報や陰謀論がソーシャルメディアを通じて野火のように広がり、ワクチン使用の速度と範囲に影響を与えています。
アジアでデング熱の症例が増加し続けている中、明らかに既存の対策ではもはや全人口を守ることはできません。誤情報を防ぐには、国家機関、医療従事者、医療支援団体と緊密に連携し、デング熱のリスクとワクチンが守れることについて、臨床試験の結果に基づく明確で理解しやすい情報を提供する必要があります。
一方、戦略的パートナーシップは、ワクチン接種を含め、包括的かつ持続可能なデング熱予防戦略の実施を加速させる鍵となります。例えば、Biological E. Limitedはインドの大手ワクチン生物製剤会社ですが、同社とのパートナーシップは、武田薬品のデング熱ワクチンの生産を年間5000万回分まで拡大するのに役立ちました。10年以内に年間1億回分に達することを目標としています。我々はワクチンを持続可能的に世界中に供給することを目的としているのですが、デング熱発生地域でのアクセスを加速させるという我々の取り組みの助力となってくれています。
ディオン氏:武田薬品は、地域社会や公的・民間部門組織とパートナーシップを結び、デング熱による世界中の負担軽減に大きな影響を与えることを重視しています。デング熱は依然として世界的に重大な公衆衛生上の課題であり、私たちは、発生地域の人々と旅行者を保護するために安全で効果的なワクチンを提供することを目指しています。私たちは、2030年までにデング熱をゼロにするというWHOの目標を支えようと全力を尽くしていますが、これにはワクチン以上のものが必要です。また、デング熱の予防、管理、抑制を改善する統合戦略に取り組むことも必要です。これを実現し、真の変化を推進するには、国家機関、保健当局、医療従事者、NGO、その他のパートナーとの連携が不可欠です。