2025年6月20日 JSTアジア・太平洋総合研究センター
科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『台湾における半導体人材育成施策と実態』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy24_rr03
台湾は、半導体製造において世界的なシェアを占め、TSMC(台湾積体電路製造)を始めとする産業を代表する企業も多数有するなど、世界の半導体サプライチェーンにおいて重要な地位を占めている。AIを始めとする新技術の発展により、半導体産業は今後も拡大が見込まれている一方で、少子高齢化や世界的な技術競争を背景とした人材の育成や確保も、質・量ともに重要な課題である。他方日本においても、半導体産業の振興を推し進めていく中で産業を支える人材の育成は急務である。本調査は、半導体人材育成における今後の日本と台湾の協力の拡大・深化を視野に入れた基盤的調査として、①台湾の半導体産業の発展状況を世界と比較しながら概観し、②台湾の半導体人材の現状と課題を各種データに基づき整理し、③台湾の半導体人材の育成システムとその戦略について具体的な実態調査を踏まえて紹介し、④半導体人材の育成を目的とした日台協力の在り方について考察を行うものである。
第1章で調査計画を述べた後、第2章では世界及び台湾の半導体産業の発展状況を概観する。上流のIC設計、中流の前工程(シリコンウェハ上に電子回路を形成する工程)、下流の後工程(回路が形成されたウェハの封止及び製品検査)という半導体のサプライチェーンのうち、台湾は前工程と後工程で世界トップのシェアを占め、設計においても米国に次いで世界2位のシェアを誇る。こうした台湾の半導体産業の発展には、1970年代以降台湾当局主導での産業振興や、当時珍しかったファウンドリーモデル(受託生産)の選択、産官学が連携した産業クラスタの形成やその中核を成すサイエンスパークの存在があった。
第3章では、台湾の半導体人材需給の現状及び課題を整理する。半導体産業の人材は研究開発やIC設計を担う高度人材と、現場での生産オペレーション等を担当する現場人材に大別されるが、いずれの人材タイプでも一定の専門性が求められ、基本的に大学などで関連分野の学位を取得している必要がある。また工程が上流になるほど、求められる専門性や学歴の水準は高くなる。このことから、STEM系の学生規模が将来の半導体産業への人材供給規模に直結するが、少子化の影響でその数は減少傾向にある。しかしながら、STEM系学生が全体に占める割合は増加しており、半導体産業も、企業が好待遇を提示していることなどから、他産業と比較した需給ギャップは平均程度に踏みとどまっている。ただし、少子化社会の台湾において、長期的な需給ギャップ拡大は必然の課題であり、非専門領域や海外人材を対象とした人材プールの拡大など、多角的な解決策が求められると言えよう。
第4章では、実際の台湾の半導体人材育成システム及び戦略について、当局、産業界、学院(大学)の各プレイヤーの関係性や、それぞれの具体的な取り組みを明らかにする。台湾の半導体人材育成は、産官学が綿密に連携し、人材やリソースを相互に補完しあっている点が大きな特徴である。当局は、博士や研究者など高度人材を育成する国家科学及技術委員会と、修士以下の幅広い人材育成を担う教育部が中心となり、人材育成を支援している。高度人材を育成する研究型大学では、当局と企業からの資金半分ずつで運営される「半導体学院」を設立し、先端技術に精通した企業講師による講義や共同研究、インターン等産学連携を通じた人材育成を図っている。現場人材を育成する実践型大学でも、当局の補助金や企業からの寄付等で環境整備を行い、実際の製造工場現場と近い環境での実習や、企業講師によるトレーニングなど、より実践的な人材育成に注力している。半導体産業において、最先端の技術や設備は企業が有している場合も多く、先端的な技術や産業状況に精通した人材を育成するには、このような環境での育成は不可欠である。企業は、これらを資金と共に大学に提供し、大学は研究開発能力や人材を提供しながら研究開発や人材育成を行っている。この産学連携スタイルは企業にとっても、研究成果を事業に活用できることに加え、優秀な人材に早い段階でタッチポイントを持てるという人材獲得の観点からも利点が存在する。
第5章では、台湾の半導体人材育成における国際協力のスタンス、及び日本の半導体人材育成の現状を整理し、それまでの調査も踏まえながら今後の半導体人材育成における日台協力のあり方の提言を行った。台湾は国際的な人材の育成、確保には積極的ではあるものの、その重点は東南アジア等にあり、現状日本は重点地域とは言い難い。しかしながら、国を挙げた半導体産業振興に取り組み始めた日本でも、日台での半導体人材育成の先進事例が複数見られつつある。日台協力での半導体人材育成には、日本人材の台湾での、大学を入口とした産学連携での教育環境による育成スキームが考えられる。本調査では具体的に、①現場人材②高度人材(台湾の大学等における高度人材の育成)③高度人材(日本の大学などと台湾半導体企業間の産学共同研究を通じたR&D人材育成)④教師人材⑤行政のバックアップ⑥潜在的な人材プールを対象とした6スキームを提言し、実際の萌芽事例も併せて調査した。大学や企業などへのヒアリングでも台湾側の協力的な姿勢も確認できており、台湾の豊富な教育ノウハウや育成環境を活用した人材育成が期待できる。