2026年10月30日 JSTアジア・太平洋総合研究センター
科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『中国における国家科学技術イノベーション拠点の整備と展開—国家重点実験室、全国重点実験室を中心に—』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますのでご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy26_rr01
中国では、1949年10月の中華人民共和国建国以来、科学技術政策を通じて国家の経済社会発展を支えることが重要な国家任務と位置づけられてきた。建国初期には、日中戦争および国共内戦により大きく毀損した科学技術基盤の回復と再建が進められたが、その後、朝鮮戦争への参戦や中ソ対立、大躍進政策の失敗などにより科学技術発展は停滞した。さらに、1966年から1976年にかけての文化大革命は、大学や研究機関の機能停止、研究人材の冷遇、研究設備の破壊を招き、中国の科学技術基盤に深刻な影響を与えた。
1978年の改革開放以降、鄧小平の主導の下で科学技術と教育の再建が進められ、大学や中国科学院を中心とした研究開発体制が回復していった。しかし、限られた研究資源の効率的活用と国際水準の研究開発能力の確立が課題となり、これに対応するため、中国政府は1980年代以降、国家科学技術イノベーション拠点の重点化・集約化を進めることとなった。
その中核となったのが、1984年に設置が開始された「国家重点実験室」である。これは、有力大学や中国科学院などに研究資源と人材を集中させた研究拠点を整備し、基礎研究能力の底上げと重点分野の研究力強化を図る制度であり、その後、中国の科学技術発展を支える基盤的研究拠点として大きな役割を果たした。
これと並行して、より大規模かつ戦略的な研究を担う「国家実験室」の構想も進められた。また、大学や中国科学院を中心とした国家重点実験室だけでなく、国と地方との連携による「省部共建型国家重点実験室」や、企業を中心とした「企業型国家重点実験室」の整備も進められた。
一方、基礎研究の成果を実用化・産業化へと結びつけるため、1992 年以降、「国家工学研究センター」や「国家工学技術研究センター」などの応用研究・イノベーション拠点が整備され、加えて2012年以降は、医療分野において「国家臨床医学研究センター」が設置されるなど、実用化に向けた研究開発拠点体系も拡充されてきた。
しかし、21世紀に入り、これら国家科学技術イノベーション拠点の増加に伴って、研究分野の重複、研究資源の分散、縦割り管理による非効率性、評価制度の論文数偏重、研究成果の産業化・実用化への接続不足といった構造的課題が顕在化した。さらに、中国の科学技術政策が国家安全保障および産業競争力の強化を重視する方向へと大きく転換し、「国家の戦略的な科学技術力(中国語で『国家战略科技力量』という)」の強化が最重要課題と位置づけられ、従来の分散型研究拠点体制では国家戦略課題への機動的・集中的対応が困難であるとの認識が強まった。
上記の課題に対応するため、中国の中央政府である国務院は2017年に、従来個別に整備されてきた国家科学技術イノベーション拠点体系を抜本的に整理・強化し、分散型・機関単位の構造から国家戦略に基づく任務指向型・階層型の体系へと移行させることとした。具体的には、国家重点実験室の「全国重点実験室」への再編、基礎科学分野における国家実験室を頂点とし国家研究センターや全国重点実験室が連なる階層的体系の構築、研究成果の実用化・産業化・イノベーション分野における国家工学研究センター、国家技術イノベーションセンター、国家臨床医学研究センターへの統合整理が、現在まで進められている。
本報告書では、こうした中国における国家科学技術イノベーション拠点の整備および再編の動向について、国家重点実験室・全国重点実験室、国家実験室、国家研究センター、国家工学研究センター、国家技術イノベーションセンター、国家臨床医学研究センターといった主要制度を中心に、その沿革、制度の特徴、現状および課題を整理する。