2023年5月30日 JSTシンガポール事務所 馮偉誠（Max Fong）

参考：当記事は2023年3月24日に投稿したものの続報。
「シンガポール-日本ファストトラック・ピッチイベント 日・ASEANの友好協力50周年を記念」

日本・東南アジア諸国連合（ASEAN）友好協力50周年を記念し、日本とASEAN地域のグローバル企業とスタートアップの連携促進を目的にスタートアップのアイデアを募集するイベント「ファイナリスト・スタートアップピッチ（Finalist Startup Pitch）」が4月20日にシンガポールで開催された。

選出されたスタートアップは、グローバル企業が指定した課題（チャレンジ）に応じてそれぞれのアイデアを発表した。今回のファストトラック・ピッチでは、ファイザー、伊藤忠商事、パナソニックを含めて8社の大手企業（チャレンジオーナー）が指定した、世界が抱えている様々な課題（チャレンジ）に対し、145社ものスタートアップが応募。その中から22社がファイナリストに選ばれ、うち13社がシンガポールのスタートアップで、4社が日本のスタートアップだった。

ファイナリスト・スタートアップピッチは、まず日本の西村康稔経済産業相とシンガポールのタン・シーレン人材開発兼第二貿易産業相の開会挨拶で始まり、両大臣とも協働によるイノベーションの重要性を強調した。その後、選出されたスタートアップは解決しようとしているチャレンジとアイデアについて発表し、チャレンジオーナーからの質問に答えた。スタートアップの発表以外にも、このイベントではネットワーキングセッションもあり、参加者が他のスタートアップ、チャレンジオーナー、政府機関やイベントの共催者と話し合う、ネットワーキングの絶好の機会となった。

今回のファストトラック・ピッチでスタートアップ企業によって発表された革新的なイノベーションは以下のようなものがあった。

Bot MD - AIチャットアシスタントで医者や看護師の手間を省く
(チャレンジオーナー: ファイザー)

ファイザーが指定した、希少疾患は実際の患者数より少ない数しか診断がつかないという「過少診断」のチャレンジに対し、スタートアップBot MDは人工知能（AI）を活用したチャットアシスタントで解決しようとしている。このAIチャットアシスタントはLINEやWhatsAppなどを通じて自動的に患者にリマインダーを送ったり、安全に生命兆候のデータを収集したり、患者の質問に答えたりすることもできる。Bot MDはあらゆる言語とチャットアプリケーションをサポートできるので、とても使いやすく、どの国でも拡張しやすい。患者の監視を自動化することで医者や看護師の負担を軽減するだけでなく、介入が必要な時も医者や看護師に通知することができ、とても便利なイノベーションである。

GaitMetrics - Wi-Fiの信号を使ったモニタリングで高齢者のプライバシーを保護
(チャレンジオーナー: パナソニック)

パナソニックからの高齢者の介護対象の状態の短縮とその予防をしたいというチャレンジに対し、GaitMetricsは室内のWi-Fiの信号を解釈できるAIの技術で解決しようとしている。この技術は現在、Wi-Fiの信号だけで部屋にいる人の位置や簡単な活動を特定できるが、将来は歩き方やもっと細かい行動も特定できるようになる予定だ。高齢者を監視する技術は他にもあるが、この新しい技術はカメラによる監視に比べると、コストが低く、高齢者のプライバシーも保護される。GaitMetricsは高齢者の日常生活での活動を記録することで、トイレの回数の増加や睡眠パターンの変化など、高齢者の行動に異常がある場合に介護者に通知することができ、病気の早期発見にもつながる。

Aevice Health－胸の音のAI分析で呼吸器疾患患者の遠隔モニタリング
(チャレンジオーナー：伊藤忠商事)

東南アジア地域で医者をサポートするという伊藤忠商事からのチャレンジに対し、Aevice Healthは、胸部につければ呼吸器疾患患者の遠隔モニタリングができるAeviceMDという小さいデバイスで応募した。この機械学習の技術を活用したデバイスは胸部からの録音で簡単に呼吸数、心拍数、喘鳴のような異常な肺音などの情報がわかるという聴診器のような機能があるだけではなく、AI分析による呼吸器疾患の早期発見も可能にする。その上、医者は自宅にいる患者にも質の高いケアを提供できるようにするので、患者はもっと早く退院し、自宅の快適な環境で療養することができる。

シンガポールで開催されたファストトラック・ピッチの第1回はこのファイナリスト・スタートアップピッチで終わりだが、次の日・ASEANファストトラック・ピッチイベントはタイの首都であるバンコクで開催される予定だ。革新的なスタートアップとグローバル企業のコラボレーションはきっとそれぞれのイノベーションで新しい未来を創るだろう。