ライブカメラ「BacCam」は光遺伝学とDNAバーコードを利用して、生きている細菌の中で画像を直接保存する。(2023年9月25日公開)
長期間データを保存しようとする研究者にとって、DNAは魅力的な媒体である。多細胞生物のDNAは複数の細胞分裂により、世代を超えて遺伝子情報を高精度度で伝える。DNAは非常に頑丈なので、200万年以上前の化石から断片が発見されている。
ハードドライブは情報を1と0の文字列でコード化したバイナリコードでデータを保存する。一方、DNAはATCG という4つの文字から成り立つヌクレオチドコードを持つ。 DNAに情報を保存するには、バイナリコードをヌクレオチドの文字列に翻訳し、その後 DNA配列を合成する必要がある。この方法により、科学者たちは映画、音楽アルバム、さらにはWikipediaのすべての記事をDNAに保存することができた。
データをDNAに直接エンコードするとDNA合成の必要はないが、画像などの2D情報をエンコードすることは不可能だった。しかし最近Nature Communications誌に掲載された研究によると、シンガポール国立大学(NUS)の研究者たちは光を使用して生きた細菌のDNAに画像を直接取り込み、それを可能にした。
大学院研究員で論文の筆頭著者であるチェン・カイ・リム氏は、チームが選択した方法について、「光は安価な情報源であり、プログラミングは容易で、高価な機器は必要ありません」と説明した。
チームはBacCamという名前のライブカメラを使い、光遺伝学とDNAバーコーディングという 日常的に使用される2つの技術を利用した。光遺伝学は光に敏感な分子を利用して細胞を操作する技術である。DNA バーコードは、タグとして機能する短いDNAの特定の配列を使う技術である。
チームは、12行6列の小さなウェルを備えた96ウェルマイクロプレートを使用した。解像度12×8ピクセルのモノクロ画像がプレート上に投影され、各ピクセルは各ウェルに対応する。「光」ピクセルの場合、光で活性化される光遺伝学システムがウェル内の細菌DNAの特定の位置で切断を行う。 さらに、各ウェルのサンプルは異なるバーコードでタグ付けされた。
チームは各ウェルにつけられたバーコードをウェルコードと呼んでいた。このバーコードを使えば各ウェルのサンプルを一緒にプールしても保管できた。DNAシーケンスには、対応するピクセルおよびピクセルの状態(明るいまたは暗い)に関する情報が含まれていた。次に、プールされたDNAの配列を決定して画像を取得した。
チームが取得した画像は様々な過酷な条件に1週間耐え抜くことができたため、この手法の耐久性を実証することができた。過酷な条件とは、例えば細胞をマイナス20 ℃ で凍結すること、60 ℃ のオーブンに保管すること、乾燥して粉末にすることなどである。
チームは次に、画像ごとに 1 枚のマイクロウェルプレートを使用して、複数の画像を一緒に保存する可能性を検討した。チームは各プレート内のすべてのサンプルに画像を特定するバーコードをタグ付けした後、5枚のプレートからサンプルをプールした。
このとき、各DNA配列には、
―が含まれていた。
プールされたDNAの配列を決定することで、5 枚の画像すべてが再構成され、各画像のピクセルの 90% 以上を正しく読み取ることができた。サンプルが 100 倍に希釈された場合でも、非常に正確な画像検索ができた。
チームは将来、カラー写真の撮影を研究する計画を立てている。色は通常、RGB(赤、緑、青)値でコード化されており、3 原色の値は異なる。リム氏は、赤、緑、青の光に反応する光遺伝学的回路を組み合わせれば、光の全スペクトルを捕捉できるだろうと述べた。実際には、光の有無だけでなく明るさをエンコードできる高感度の光遺伝学回路が必要となる。
DNAデータ保存の次の最前線は、映像を直接DNAに取り込むことになろう。リム氏は「人間は時代の流れとともに情報をエンコードする方法を開発してきました。 私たちはこれらの方法を私たちのシステムに組み込む方法を模索しているところです」と付け加えた。