「グリーン・デジタル海運回廊」の確立へ シンガポール、豪日と連携強化

2024年3月21日 斎藤 至(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

シンガポール運輸省は3月5日、オーストラリアとグリーン・デジタル海運回廊の確立について協力覚書を交わし、公式な連携について動き出した。本稿ではこの構想を中心に、同分野に関する両国の研究開発協力を眺め、今後の更なる連携可能性について展望する。

リモートセンシング技術の導入で「海運の要衝」のイノベーションが期待される
(写真はイメージ)

「グリーン・デジタル海運回廊」とは、海洋交通の脱炭素化(二酸化炭素排出量の少ない燃料や動力源への移行)とデジタル化(リモートセンシング等を用いた交通網の最適化・ペーパーレス化)を推進する構想。既に日本とも2023年12月に、日ASEAN友好協力50周年に併せた会合で覚書を交わしている。この時、シンガポールの運輸省(海運・港湾庁、MPA)は日本国内主要6港と試行的に「グリーン・デジタル海運回廊」の結束を深めることを歓迎した。

オーストラリアは、シンガポールを主要な多国間連携の枠組に加えてはいないものの、海峡を隔てた隣国として地政学的に重視している。2015年に結ばれた包括的戦略パートナーシップでは、防衛科学技術における協力覚書(MoU)の強化と更新について明記し(17条5)、海洋安全保障を中心に連携している。

シンガポールとオーストラリアは、論文データから見た研究開発動向でも連携が顕著である。国際共著関係で言うと、オーストラリアはシンガポールから見て、アジア・太平洋地域および先進国の中では4位(全分野11.4%)、地域では中国に次いで2位の共著相手国である。本MoUの合意対象であるグリーンとデジタルに関しても、それぞれ12.0%(環境)、8.6%(数学・情報)の共著シェアを有している。

既に約3年前の2021年6月、オーストラリアの産業・科学・エネルギー資源省(現DISR)はシンガポール、日本、ドイツそれぞれとの間で、温室効果ガス(GHG)の排出削減技術に関する技術提携を行うことを発表した。3,000万豪ドル(約30億円)を投資して、(1)クリーン水素・蓄電池・電動化等の開発の促進、(2)海運や港湾活動における排出量の削減を目指す。これらの枠組みの下で、投資の呼び込みやサプライチェーンの構築、研究と技術の発展を支援するさまざまなプロジェクトを実施しているという。

シンガポールが面するマラッカ・シンガポール海峡は、年間約12万隻以上の船舶が通行し、世界で最も混雑する地域の1つである。その交通網における環境負荷低減や管理のスマート化は広域的な課題である。日本も含め3カ国で海洋交通に関わるイノベーションが進めば、全地球的な環境課題の改善を図りつつ、協力を深めることができよう。

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