ATxSummit 2024-AIモデルを評価できる最新ツールを発表 シンガポール

2024年6月24日 JSTシンガポール事務所 馮偉誠(Max Fong)

(画像は筆者提供)

アジアの大規模なテックイベントATxSG 2024が5月29日から5月31日までシンガポールで開催された。その中のイベントの1つATxSummitでは世界中から政府、企業また研究のリーダー達が集まり、人工知能(AI)、量子コンピューティングや学校教育などについて議論した。昨年のATxSummitの参加者は約2500人だったが、今年のイベントでは4000人以上が現地もしくはオンラインで参加した。参加者数が大幅に増加したことから、シンガポールのAIガバナンスや量子コンピューティングの戦略は一段と世界中から注目されていると言えるだろう。

量子コンピューティングの展望

パネルディスカッションでは、量子コンピューティングは現在ノイズやハルシネーションなどの問題でまだ実用化が難しいが5年ほど経てば幅広く実用化される可能性が高い、と各国の量子コンピューティングの専門家が述べた。シンガポールでも2002年から量子の研究が行われているが、ここ数年先端技術を追及し国内の量子エコシステムを育成するため、2022年には国家量子局(National Quantum Office)を設立した。今年5月30日に発表された国家量子戦略(National Quantum Strategy)では、量子コンピューティングの人材育成やインフラ整備に3億シンガポールドル(約340億円)以上を投資すると策定している。戦略の一環として、シンガポールは国立量子奨学金スキームを通じて、量子技術の修士および博士レベルの人材を5年間で100名ずつ育成する予定だ。

教育の見直し

ATxSummit2024では先端技術だけでなく、学校教育に関するパネルディスカッションも行われた。技術はこれからも急速な進歩を続けると予想されているが、職場で求められるスキルや知識も同様に変化していく。AI技術はすでに様々なタスクで人間の能力を超えたこともあり、疲れを知らないAI技術に多くの仕事が奪われる可能性がある。では、学校は子どもたちにどのような教育を施すべきだろうか?子どもたちが将来に備えるために、現行の学校教育を見直す必要がある。シンガポールの教育相チャン・チュンシンによれば、10年後に求められるスキルを正確に予測することはほぼ不可能であるため、若いシンガポール人を将来競争力がある労働力に育てるためには、学校教育で学ぶ力と適応力を身に着けさせるべきだと述べた。

AIガバナンス

シンガポールのヘン・スイキャット副首相は開会の挨拶で、技術の進歩が多くの利益をもたらす一方で、悪用のリスクもあることを強調した。特に、生成AIやディープフェイク技術のようなAI技術はますますアクセスしやすくなったが、詐欺やプライバシーの侵害などの犯罪で利用されていることが大きな問題になっている。日本AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の所長である村上明子氏もパネルディスカッションで、AI技術のリスクを管理するためのガイドラインが必要であり、「ブレーキがなければアクセルは踏めない」と述べた。しかし、国によってAI技術の状況が違ってくるため、AIガバナンスにおいては国際協力が非常に重要であるとのことである。

「Project Moonshot」の発表

AIセーフティではガイドラインの他に、AI技術の安全性を評価するツールも欠かせないものである。昨年、シンガポールはオープンソースの「AI Verifyツールキット」を発表した。このツールキットではAI技術の安全性、説明可能性や公平性などを評価できるがまだ大規模言語モデル(LLM)や生成AIなどの新しいAI技術を評価する機能がなかった。しかしATxSummit2024の2日目には、シンガポールのAI Verify FoundationがまたAI技術を評価する最新ツール「Project Moonshot」を開発したことが発表された。Project MoonshotはAI Verifyと違って生成AIや大規模言語モデルも評価できるツールであり、簡単なユーザーインターフェースを備えているので、Project Moonshotを通してAIの専門知識がないビジネスオーナーや一般人でも、導入や利用したいAI技術の安全性を評価できる。

急速な技術革新の中、シンガポール政府のAIガバナンスの取り組みは高評価を得ている。現在、AI Verify FoundationにはGoogle、IBM、Microsoftなどの大手企業を含め、100社以上の企業がメンバーとして参加している。

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