2024年12月5日 JSTシンガポール事務所 馮偉誠(Max Fong)
Singapore Centre for 3D Printing (SC3DP)は、航空宇宙や建築、バイオ製造などといった分野における最先端の3Dプリンティング技術の研究開発のために設立された研究所である。今回、この研究所を取材する機会を得た。どのような3Dプリンティング技術を研究しているのかを探ってみた。
3Dプリンターで作られたトイレ
SC3DPは、2014年にシンガポール国立研究財団(NRF)の支援でシンガポールの名門大学、南洋理工大学(NTU)のキャンパスに開設され、3Dプリンティング雑誌All3DPの研究所ランキングではアジア太平洋地域で第1位、世界で第7位にランクインし、国際的に高い評価を受けている。SC3DPでは16ヶ国の研究者が共同で3Dプリンティング技術の研究をしている。現在、120人以上在籍している研究者の中で、論文の被引用数に基づくランキングで世界トップ1%の研究者が3人、トップ2%の研究者が25人いる。その他、SC3DPはアメリカをはじめ、中国、フランス、ブラジルなど世界中の研究機関や企業と共同研究を行っている。大林組との建設用3Dプリンティングの共同ラボやパナソニックとのエレクトロニクスの共同研究など、日本との協力の事例もいくつかある。
3Dプリンティング技術は分野によって大きく違ってくるので、その分野に適した3Dプリンターの設備が必要となる。SC3DPにはコンクリートや食品、人工皮膚などを3Dプリントする多種類の3Dプリンターが備わっている。
SC3DPの3Dプリンターの中で一番規模が大きかったのは建設用の3Dプリンターだった。この3Dプリンターは12時間くらいで部屋をプリントすることができるそうだ。3Dプリンティング技術を使うと、コンクリートの濃度や内部構造を調整することで、建設にかかる時間も資材も3割ほど節約することができる。
建設用の3Dプリンター
世界人口が増えるとともに肉や穀物の需要も増加すると、食糧不足が問題となるが、3Dプリンティング技術はこの問題を解決する鍵となる可能性がある。SC3DPの研究者は培養された牛や魚の細胞を使って持続可能な肉を3Dプリントするという研究をしているが、安全性や美味しさの確保がまだ必要だ。将来、3Dプリンターの食品が今食べられている食品の代わりになるかもしれない。
3Dプリントのサーモンと和牛のサンプル
バイオ3Dプリンターは適切な温度でバイオマテリアルや細胞を使えば、生きた臓器のようなものをプリントすることができるため、人工皮膚で火傷の被害者の治療などに役立っている。臓器移植を待っている患者はまだたくさんいるが、もし人工臓器も3Dプリントできるようになれば、より多くの人が救われるはずだ。
SC3DPのバイオ3Dプリンター
(画像はすべて筆者提供)
他の分野でもこういった3Dプリンティング技術が活用されているが、無限の可能性を秘めている3Dプリンティング技術は、今後も様々な分野において素晴らしい発展が期待できるだろう。