2024年06月
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膠芽腫治療に既存抗がん剤の転用を確認 シンガポール南洋理工大学

シンガポールの南洋理工大学(NTU)は5月8日、NTUリーコンチアン医科大学(LKCMedicine)と 国立神経科学研究所(NNI)の研究者らにより、既存の抗がん剤が進行性脳腫瘍の治療に転用できることを確認したと発表した。研究成果は学術誌Neuro-Oncologyに掲載された。

(出典:NTU)

膠芽腫は脳腫瘍の中でも致死的な腫瘍として知られており、5年以上生存する患者はわずか5%である。このがんは治療が難しく、多くの場合治療に抵抗性を示す。その結果、膠芽腫の再発は事実上避けられない。

現在、膠芽腫の治療にはテモゾロミド(TMZ)と呼ばれる化学療法薬が使用されている。TMZはがん細胞のDNAに損傷を与え、細胞分裂を阻止する。しかし、膠芽腫の多くは、がん細胞がTMZに対する耐性を獲得するため、再び増殖する。耐性が生じるのは、膠芽腫が異なる性質を持つ細胞集団から構成されており、一部の細胞がTMZに適応し抵抗するためである。

この薬剤耐性の背後にある細胞のメカニズムを理解し、耐性膠芽腫の潜在的な創薬標的を見つけるため、研究者らは、患者由来の間葉系膠芽腫(ME)と前神経膠芽腫(PN)細胞におけるプロテインキナーゼ(がんの増殖と転移に関連する細胞シグナル伝達経路に関与する酵素)の活性を比較した。その結果、MEのマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)と呼ばれるプロテインキナーゼの一種が活性化していることを明らかにした。中でも、p38MAPKとMEK/ERKのMAPKの活性が認められた。

研究者らは、患者のME細胞をマウスに移植した実験を行い、p38MAPK阻害剤ラリメチニブ、MEK阻害剤ビニメチニブ、TMZの3種を併用投与したマウスが72.5日の生存したことを確認した。これはTMZ単独投与マウス(63日)より長く生存する。

本研究の共同責任者であるLKCMedicineのアンドリュー・タン(Andrew Tan)准教授は、「私たちの研究は、膠芽腫が複数の経路を通じて薬剤耐性を獲得していることを示しており、この疾患のより正確な治療の必要性を示唆しています」と語る。研究者らは、この治療法の臨床試験を実施する予定だ。また、最先端の分子プロファイリング技術と機械学習などの人工知能技術を活用し、膠芽腫の治療薬の戦略的な組み合わせと薬剤デリバリーを改良する計画である。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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