シンガポールの南洋理工大学(NTU)は5月16日、研究者らがX線検出器に金の層を加えることで、X線画像の鮮明度とスキャン速度を大幅に向上させる技術を開発したことを発表した。研究結果は、科学誌Advanced Materialsに掲載された。
ペロブスカイトと金でできたサンプルを可視光検出器にセットするNTUの研究者
シンチレーション物質は放射線を吸収し暗闇で光を放つ性質があるため、この物質を利用したX線検出器を使うと、目に見えないX線を可視化できる。シンチレーション物質が光を放ち、その可視光をセンサーが捉えることでX線画像が作られる。光の明るさが増すほど、画像はより鮮明かつ精細になる。
NTUとポーランドのルカシェヴィッチ研究ネットワークPORT技術開発センター(Lukasiewicz Research Network-PORT Polish Centre for Technology Development)の研究チームは、金のプラズモニック特性(電子を波打つように動かして放射線に反応させる仕組み)を利用し、シンチレーション物質の可視光放出を加速させた。この研究では、髪の毛の約1000分の1の薄さである70nmの金の層を、ペロブスカイト化合物の1種である臭化ブチルアンモニウム鉛と呼ばれるシンチレーション材料に追加した。その結果、可視光が平均で120%明るくなり、X線画像が38%鮮明になり、画像の区別能力が182%向上した。また、金の層によって、放射線検出器の反応時間が平均で1.3n秒(約38%)短縮され、X線スキャン速度が向上した。
この技術によって、より高精度なX線医療画像と、より迅速な空港のX線保安検査の実現が期待される。今後の研究では、シンチレーション材料が放つ可視光を増強するために、金の層の表面にナノサイズの切り欠き状のパターンを加えることが計画されている。
この研究は、NTUを拠点とするフランスとシンガポールの共同研究所であるフランス国立科学研究センター(CNRS)-NTU-タレス研究アライアンス(CINTRA)、Institut Lumière Matière CNRS、およびナノセンターインドネシア(Nano Center Indonesia)の協力により実施された。
NTUの研究チームメンバー
(出典:いずれもNTU)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部