シンガポール国立大学(NUS)は5月21日、磁気パルスを利用して筋肉細胞の自然な防御機能を活性化させ、がんに対抗する新しい方法を発見したことを発表した。研究結果は学術誌Cellsに掲載された。
研究を率いるアルフレド・フランコーオブレゴン(Alfredo Franco-Obregón) 准教授(左)
(提供:NUS)
運動は乳がん、前立腺がん、大腸がんの発症リスクを低下させ、がん患者の生存率を向上させるなど、がん予防効果があることが知られている。しかし、がんの進行による衰弱や治療に関連した副作用により、がん患者は運動ができず、運動による筋肉の活性化に伴う抗がん作用の恩恵を受けることができない場合があった。
NUS傘下の医療技術研究所(iHealthtech)のアルフレド・フランコーオブレゴン(Alfredo Franco-Obregón)准教授が率いる研究チームは、磁気パルスを用いて筋肉を刺激し、抗がん作用を持つタンパク質を産生・放出させる新しい方法を発見した。前臨床試験により、週1回10分間の磁気パルス療法を8週間続けるだけで、週2回、1回あたり20分の運動を8週間続けた場合と同様の抗がん作用が得られることが示された。
さらに、研究チームは筋肉細胞が分泌するHTRA1というタンパク質ががん細胞の増殖を抑制することを突き止めた。HTRA1を取り除くと抗がん作用がなくなる一方、人工的に作られたHTRA1をがん細胞に直接作用させると、磁場を使った治療と同じ効果が得られることを実証した。この発見は、HTRA1が磁場や運動による抗がん作用を説明するのに必要かつ十分であることを示している。
フランコーオブレゴン准教授は「この研究により、私たちの非侵襲的な筋肉刺激法が運動と同様の抗がん作用を発揮することが実証され、薬物を使わない治療法の開発や、運動ができないがん患者が運動刺激による抗がん作用の恩恵を受けるためのがん関連バイオマーカーの発見に一歩近づきました」と語った。研究チームは、ヒトにおける筋肉を標的とした磁気パルス療法の抗がん作用を評価する臨床試験を開始し、乳がんやその他のがん患者におけるHTRA1の抗がん作用の研究を進める予定だ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部