シンガポールの南洋理工大学(NTU)は6月5日、世界規模の広範な調査研究により、農業景観に多様性があると、より多様な野生生物が農場で繁栄し、農家と環境の両方に利益をもたらすことが明らかになったと発表した。研究成果は学術誌Ecology Lettersに掲載された。
中国の農地は、景観の多様性が特徴であり、さまざまな作物と半自然の特徴が見られ、特に草地のような作物畑の境界に沿ってその変化が顕著である
研究によると、農場にある作物の種類や非作物の特徴、そしてそれらの配置は多様であるべきであるという。最適なのは、同じ農場で野菜、穀物、果樹などさまざまな作物を、畑の大きさやレイアウトを変えながら栽培することである。また、低木や草地の境界線、野生の草花の生い茂る場所など作物以外の半自然的な景観を設けることである。
多様性を設けることで単一の画一的な景観で1種類の作物だけを栽培している農地に比べて、受粉媒介者や害虫の捕食者などの在来動物種の数が増加する。受粉媒介者や害虫捕食者の増加は、農作物の収量を向上させることがこれまでの研究で示唆されている。
中国南部の農地でナスに受粉する在来種のクマバチ
(出典:いずれもNTU)
生物多様性減少の主な要因の1つは、食糧増産を目的とした農業の増加であり、農地における野生生物の多様性を高めることは、環境保全の鍵となる。本研究の著者であるNTUアジア環境大学院(ASE)のエレノア・スレイド(Eleanor Slade)准教授は「私たちの研究は、農業景観の中で多様な作物と非作物の生息地を維持することが、地球規模での農業生物多様性にとって重要であることを示しています。この発見は政策立案者、土地管理者、保全活動家にとって貴重な洞察を与えてくれます。作物や景観の多様性を促進する戦略を優先することで、生物多様性を保全し、持続可能な農業を支援することができます」と語った。
研究者らは、アジア、ヨーロッパ、北米、南米の24カ国で実施された122の先行研究で報告された6400近い農地を分析し研究を行った。このことから北米やヨーロッパ諸国を主な対象とした先行研究よりも本研究結果がより世界的に適用可能であると考えている。今後、農家に農場の作物や景観に多様性を導入するように促す際に考慮すべき社会的側面について調べる予定だ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部