シンガポールの南洋理工大学(NTU)は8月2日、糖尿病ケアのためにインスリン分泌細胞を内蔵する新しいインプラントと、関節炎の痛みを和らげる新しい薬物送達システムを開発したことを発表した。研究結果は、科学誌Acta Biomaterialiaに掲載された。
医学の進歩によって、長寿化している一方で、慢性疾患の蔓延に悩まされるようになった。高齢者では90%以上が慢性疾患に罹患しているという。特に糖尿病や関節炎は深刻な合併症を引き起こし、生活の質を著しく損なう。
インプラント内の細胞が血液中のグルコースレベルに応じてインスリンを放出するため、血糖値を調節する定期的なインスリン注射は不要となる
Credit: Dang Thuy Tram
このインスリン分泌細胞は、健康なドナーの膵臓から分離されたものや、幹細胞から作られたものを使用し、特殊なハイドロゲルでカプセル化されている。これにより、免疫システムの攻撃から細胞が保護される。この細胞を内蔵するインプラントは、糖尿病患者の皮膚の下に移植され、血糖濃度を感知し、適切な量のインスリンを分泌することで、血糖値を正確に調整する。そのため、患者は定期的なインスリン注射や免疫抑制剤の服用が不要となり、薬に関連する副作用を避けることができる。また、インプラントは細胞が生き延び、繁栄するために必要な酸素の取り込みを最適化するように設計されている。
このインプラントのプロトタイプは、糖尿病のマウスにおいて血糖値を正常化する効果が実証されており、研究チームは現在、人間の臨床試験に向けた準備を進めている。この技術は特許出願中であり、2022年のPrototypes for Humanityプログラムの医療部門で優勝し、社会的利益をもたらす世界トップ100のイノベーションとして表彰された。
炎症に反応してハイドロゲルから薬剤が放出され関節炎の症状を緩和する
Credit: Dang Thuy Tram (出典:いずれもNTU)
一方、関節炎に対する新しい薬物送達システムは、炎症に反応してハイドロゲルから正確な量の抗炎症薬を炎症が発生した組織に放出することで、関節炎の症状を緩和する。このシステムは、慢性炎症を持つマウスモデルで安全かつ有効であることが確認されており、現在は関節炎を持つラットでの評価が行われている。また、研究チームは、国内の病院の臨床パートナーと協力し、将来の臨床試験に備えてヒトの関節液を用いたハイドロゲルの評価を進めている。この発明も特許出願中であり、国内外の起業コンテストで多くの賞を受賞している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部