シンガポール国立がんセンター(NCCS)は9月2日、エクソソームを使用して、上皮成長因子受容体-チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)に耐性を持つ扁平上皮がんを標的にできたことを発表した。研究成果は学術誌Developmental Cellに掲載された。
EGFRが関与するがんの最大のグループの1つが扁平上皮がんであり、世界的に最も死亡率の高いがんの1つとなっている。NCCSのゴパール・イアイヤー(Gopal Iyer)教授は頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)を治療しているが、その腫瘍の80~90%でEGFRが過剰に発現しているという。EGFR-TKIは、EGFRを標的としてがん治療に一般的に使われる薬剤だが、治療の効果にはばらつきがある。EGFRが高濃度に存在する腫瘍の多くはこのTKIに抵抗性を示すことが知られている。
2017年、イアイヤー教授の研究チームは、多くのHNSCC患者の治療においてEGFRを標的とする薬剤の効果が見られない中、一部のHNSCC患者で、EGFR-TKIに対する感受性を持つ遺伝子変異を発見した。この変異は患者全体の3~5%に見られた。最新の研究では、感受性の高い腫瘍で産生されるEGFRアイソフォームDという物質には、全ての生きた細胞から排出されるエクソソームによって分泌可能であることを明らかにした。エクソソームによって運ばれ、隣接するがん細胞に取り込まれることでTKIに感受性を持たせることができることも示された。TKI感受性がんから耐性がんにTKI感受性を移行できることが、細胞実験だけでなくマウスを用いた実験でも確認でき、エクソソームが新たながんの治療法として期待されている。
イアイヤー教授は、「エクソソームが他のがんの治療感受性を高めるために応用できる可能性があるという宝箱を開けました。エクソソームががんと闘うためのもうひとつの武器となる可能性は、未来に向けて無限に広がっています」と語る。研究チームは、エクソソームの生産を拡大し、早期臨床試験に向けた準備を進めており、産業界や学術機関と協議を行っている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部