2025年08月
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シンガポール北部地域のボーリング調査で高温地熱を観測

シンガポールの南洋理工大学(NTU)は7月4日、NTUとタムクリエイト(TUMCREATE)社による共同研究チームが、シンガポール北部センバワンのボーリング調査において、深さ1.76kmで122℃という高温地熱を観測したことを発表した。

今回の調査結果は、シンガポール国立研究財団(NRF)とエネルギー市場監督庁(EMA)の支援を受け、スルバナ・ジュロン(Surbana Jurong)社の協力のもとに実施された全国地熱評価により得られたものだ。岩石コア分析と温度勾配の評価により、北部地域の熱流量は地球大陸平均の2倍以上とされ、火山帯外にある同国においても有望な地熱資源が存在することが明らかになった。

研究チームを率いたNTUのエネルギー研究所(ERI@N)のアレサンドロ・ロマニョーリ(Alessandro Romagnoli)教授は「センバワン掘削孔は、シンガポールの地熱評価の新たな基準となります。この結果は、地熱エネルギー分野で商業的に利用可能な技術を用いた発電と地域冷房の大きな可能性を示唆しています」と述べた。もし、温度勾配が一定であれば、5km地点で230℃に達する可能性があり、地熱の既知の用途としては、発電、地域冷房、産業暖房、熱駆動型淡水化などが挙げられるという。

シンガポールでは、2050年までにネットゼロ排出を達成するという目標があり、地熱エネルギーの役割を評価する国家的取り組みの一環として、高度地熱システム(AGS)や強化地熱システム(EGS)などの熱抽出技術が現在評価されている。共同研究チームの分析では、現在のエネルギー価格や冷水製造コストと比較すると、AGSの発電コストは水素ガス火力発電所と同等、冷水コストは28%低くなり、EGSでは発電コストが少なくとも38%削減、冷水コストが39%削減されると試算された。また、両技術とも温室効果ガスの排出を90%以上削減可能であり、このような地熱技術が導入されれば、シンガポールは長期的なエネルギー需要の一部を賄うことができ、炭素ベースの燃料への依存を大幅に減らすことができる可能性があるとした。NTUチームは今後、インドネシアなどの地域パートナーとも連携し、東南アジア全体の地熱開発をサポートしていく予定だ。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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