【26-05】中国の研究人材育成に対する米国の影響(2)
米国における中国人留学生・研究者の規模の推計
白尾隆行(JSTアジア・太平洋総合研究センター 元副センター長) 2026年02月17日
はじめに
第二次トランプ政権が昨年末に公表した「国家安全保障戦略」は、米国の外国人材受け入れ政策にどのような影響を及ぼすのかという点で、大きな関心を集めている。世界各国が優秀な人材の獲得競争を繰り広げる中、米国の科学技術・イノベーションの発展において外国人材が果たしてきた役割は極めて大きい。したがって、米国における外国人材の動向は、同国の経済および研究力の将来を左右する重要な要素である。
前回のコラム では、新たな国家安全保障戦略が示唆する米国の外国人材受け入れ政策について検討した。本稿ではその続編として、米国で学業を修め、研究活動に従事する中国人留学生および研究者が、どの程度の規模で米国の研究エコシステムに関与しているのかを、既存の統計資料に基づき推計する。
米国における中国人留学生の規模と動向
米国における外国人材の主要な出身国は、インド、中国、韓国の3か国である。本稿では、このうち中国人留学生および研究者に焦点を当て、とりわけ科学・技術・工学・数学分野(STEM系)、あるいは科学・工学分野(S&E系)の研究人材を主な分析対象とする。
まず、送り出し国である中国側の統計をみると、中国から海外への中国人留学生の総数は、新型コロナウイルス感染症の影響等により2020年には約45万人まで減少したものの、2024年には約71万人となり、以前の水準に回復している。この数値には、学部生、修士・博士課程の大学院生、ポスドク研究者などが含まれる。ただし、その内訳は示されていない。
次に、受け入れ国である米国側の状況を確認する。ここでは、米国国際教育研究所(Institute of International Education:IIE)が公表するOpen Doors統計を参照する。同統計では「国際学生(international students)」として各国の人数を集計している。「国際学生」の区分は、学部生、大学院生、任意実務訓練(OPT:Optional Practical Training)取得者[注]、学位取得を目指さない学生となっている。これによれば、2024/25年度における米国の中国人国際学生の数は26万6千人であり、前年より約4%減少したものの、インドの33万2千人に次ぐ規模を維持している。内訳は、学部生7万9千人、大学院生12万人、OPT取得者6万2千人である。
近年の推移(図1)をみると、学部生は2020年以降一貫して減少している一方で、大学院生およびOPT取得者の人数は比較的安定している。
図1 米国のレベル区分別中国人国際学生数の推移
出典:Open Doors International students Dataに基づき著者作成
米国の研究エコシステムにより直接関与し、ここで把握すべき人材は修士課程・博士課程の大学院生およびOPT[i]取得者と考える。
図1に示すとおり、大学院生は12万人規模で推移している。既存の統計によれば、中国人国際学生のうち半数以上がSTEM系分野を専攻しているとされており、これを踏まえると、STEM系の中国人大学院生は6万人規模と推計される。
一方、OPT取得者は6万2千人であるが、移民・関税執行局(ICE)のSEVISデータによれば、STEM系OPT取得者は3万3千人とされている。
以上を合算すると、大学院生およびOPT取得者という立場で、STEM系分野において米国の研究エコシステムに関与している中国人研究人材は、9万規模と推計される。前述の中国側統計では米国を含む海外の中国人留学生数は2020年から約5割増加しているが、米国に留学する中国人学部生は逆に大幅に減少し、学部レベルにおいては中国人学生の米国離れは著しいものがあると推測できる。一方、研究人材に着目すると、第一次トランプ政権以来、そしてバイデン政権においても継続された、厳しい対中国政策にもかかわらず、9万人規模の中国人研究人材が国際学生として米国内に継続的に存在しており、彼らにとって学部生とは異なり、米国での研究、訓練等の実施はマイナス面を打ち消すような魅力があるものと思われる。
米国における中国人研究者を加えた研究人材総数の規模と動向
次に、上記の国際学生としての研究人材に研究者を加えた米国の中国人研究人材の総数について検討する。OPT取得後に大学や研究機関で研究活動を継続する場合、H-1Bなどの一時的就労ビザや、EBカテゴリーによる永住権を取得することになるが、これらの統計には「研究者」という明確な区分が存在しない。
この点で有用なのが、Open Doors統計が公表している「国際研究者(International Scholars)」のデータである。これは主として大学において教育・研究に従事する研究者を対象としており、大学以外の国立研究機関や民間企業で活動する研究者は含まれていないものの、大学を中心とする研究人材の動向を把握する上で有用な統計である。
2023/24年度における中国人研究者数は2万3千人であり、全出身国の中で最大の規模となっている。この人数は全分野の合計であるため、Remco Zwetsloot(2020)の推計方法を用いてSTEM系研究者数を算出すると、1万8千人と推計される。
図2が示すように、中国人研究者数は2018/19年度以降、対中政策やコロナ禍の影響を受け一時的に減少したものの、近年はやや回復傾向を示している。
図2 在米中国人研究者総数と同STEM系研究者数の推移
出典:Remco Zwetsloot (2020)の計算方法を用いOpen Doors International Scholar Data, Leading Places of Originに基づき著者作成
以上を踏まえ、①STEM系大学院生(6万人)、②STEM系OPT取得者(3万3千人)、③STEM系研究者(1万8千人)を合算すると、ここ数年の米国の中国人研究人材は、11万人規模と推計される。
この数値には、国立研究機関や民間企業で活動する研究者が十分に含まれていないことを考慮すると、実際の規模はこれを上回る可能性がある。少なくとも、11万人規模の中国人研究人材が、米国の研究力を支える存在となっていると評価することが妥当であろう。
なお、米国の研究者総数は2022年時点で168万人とされており、中国人研究人材はその6.5%を占めることになる。
参考として、在米研究者数の上位3か国(中国、インド、韓国)の推移を図3に示す。中国人研究者数の変動は比較的大きい一方、インドおよび韓国からの研究者数は、人数は中国に及ばないものの、全体として安定的に推移していることが確認できる。
図3 米国研究者数上位3カ国の研究者数の推移
出典:Open Doors, International Scholarに基づき著者作成
中国人研究者数の動向を捉える手がかり:博士号取得者数と滞米意向
ここまでに示した人数は、ある時点において米国に滞在していた中国人研究人材の人数である。この人数が今後どのように変化していくのかを考える上では、新たに研究エコシステムに加わり、あるいは出て行く人材の数、すなわち人材の動きを把握することが重要となる。
中国人国際学生数は全体としては26万6千人で、微減傾向にあるが、学部生(7万9千人)数は著しく減少している。このような中で、学部生の一部は修士課程や博士課程へ進学すると考えられるが、その進学者数や進学率に関する体系的な統計は存在しない。また、中国本土や第三国の大学を修了後、米国の大学院へ進学する中国人も存在するはずであるが、こうした米国の高等教育を中心に米国内外から形成されるパイプライン全体の規模と傾向を把握することは、現時点では困難である。
このような状況の中で、上述の動きを把握する上で興味深い指標が、米国科学財団(NSF)傘下のNational Center for Science and Engineering Statistics(NCSES)が公表している博士号取得者に関する統計である(図4)。学部学生ではインドが最多である一方、S&E系博士号取得者では中国が突出して多く、過去10年程度にわたり、第一次トランプ政権下の対中政策の強化やコロナ禍の影響にもかかわらず、概ね増加傾向を維持している。
図4 米国でS&E系博士号を取得した外国人学生数の推移
出典:Top 6 countries or economies of origin of temporary visa holders earning U.S. research doctorates in science and engineering, by country or economy of citizenship: 2013-23、NCSES
さらにNCSESでは、中国人を含め博士号取得者全体を対象に、米国にとどまる意向(滞米意向)に関する調査を行っており、中国人博士号取得者に関する結果を図5に示す。
図5 中国人博士号取得者数と滞米意向を有する者の率
出典:NCSESのデータに基づき著者作成
この統計によれば、米国で博士号を取得する中国人は、年間6,500人前後で推移しており、2021年に一時的な減少がみられたものの、近年は増加傾向にある。また、滞米意向を有する者の割合も、2024年には約80%に達しており、再び高水準に回復しつつある。S&E系の博士号を取得した中国人の割合は、2023年では6,651人のうち5,881人(約90%)であり、滞米意向を持つS&E系博士号取得者も相当数に上ると考えられる。
以上を踏まえると、毎年新たに米国で博士号を取得する6千人規模のS&E系中国人研究人材が、OPT取得者や研究者として研究エコシステムに加わることで、前述の11万人という規模が形成・維持されていると理解することができる。また近年、OPT取得者や研究者数が微増傾向にある背景には、滞米意向を持つ博士号取得者の増加が影響している可能性がある。
おわりに
本稿では、既存統計を基に、米国の研究エコシステムに関与している中国人研究人材の規模を推計した。その結果、大学院生、OPT取得者、研究者を構成要素とする中国人研究人材は、少なくとも11万人規模に達していることが示された。また、それぞれの構成要素の規模が近年安定的に推移していることも確認した。
今後、米国の外国人材受け入れ政策が変化した場合、この構成要素の規模がどのように変動するのかを継続的に観察することが重要である。とりわけ博士号取得者の人数およびその滞米意向を有する者の動向が、中国人研究人材の将来像を占う上で、重要な先行指標となるであろう。
[注]OPTとは、学生あるいは大学院生が履修科目に関わる就労経験を得るために設けられた資格で、申請により上限12カ月(STEM系の場合はさらに24カ月)を限度に移民・関税執行局(ICE)が認可するもので、修業中でも修業後も取得可能である。
参考資料
- "International Students Academic Level and Places of Origin",Open Doors 2025, Institute of International Education.
- "2024 SEVIS Records with Authorizations to Participate in STEM-OPT by Country of Citizenship", Student and Exchange Visitor Information System (SEVIS), US Immigration and Customs Enforcement.
- Remco Zwetsloot (2020) 'US-CHINA STEM TALENT "DECOUPLING" Background, Policy, and Impact', The Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory LLC.
- "Research doctorate recipients with temporary visas intending to stay in the United States after doctorate receipt, by region and country or economy of citizenship: 2018-24", National Center for Science and Engineering Statistics | NSF 24-336.
- "Top 6 countries or economies of origin of temporary visa holders earning U.S. research doctorates in science and engineering, by country or economy of citizenship: 2013-23", NCSES.
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