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中国NSFCが推進する「非コンセンサス型プロジェクト」-中国および主要国の動向とその意義

白尾隆行(JSTアジア・太平洋総合研究センター 特任アドバイザー) 2026年10月19日

 2026年9月4日、中国国家自然科学基金委員会(NSFC)情報科学部が「2026年度主要非コンセンサス型プロジェクト提案募集」に関する発表を行った[1]。NSFCが同8月26日に発表した2026年度国家自然科学基金の審査結果においても、「非コンセンサス型研究」について「生命科学・化学・工学・材料などの分野で関連研究課題の発掘が進められており、新たな概念・理論・方法を提示する研究や、既存の研究パラダイムを転換する可能性を持つ研究が重点的に支援される」としている[2]。

 今回のコラムでは、この「非コンセンサス型プロジェクト」に関わる中国および主要国における動向を紹介しつつ、今後の意義について考察したい。なお、「非コンセンサス型」は、中国語では「非共识」であり、「非合意型」あるいは「非共通認識型」ともいわれる。要するに審査委員会等でコンセンサスが得られない、極めて挑戦的なプロジェクトを指す。

 研究助成金に対する申請書や研究論文の審査に対しては、同僚専門家のグループが評価するいわゆるピアレビュー方式(中国では「同業評価」という)が採用されているが、そもそもこの方式は、第二次世界大戦直後、米国国立衛生研究所(NIH)のグラント申請の審査において導入され、その後今日まで世界のファンディング機関や科学誌出版機関において広く採用されている。

 一般的には、一定の審査テーマ毎の専門家10人ないし20人程度が数日間、ファンディング機関主催の審査委員会(NIHでは170以上の「スタディ・セクション」[3]という審査委員会が開催される)で予め配布された申請書につき、担当審査員からの報告に基づき議論する。審査に関わる議論を踏まえ、審査員全員が一定の点数付けを行い、点数を評価し、予算に応じて助成を決める。コンセンサス方式といっても、余程のことがなければ、スコアとして個人の評価は全体の中に埋もれてしまうという具合である。

 中国においても2000年代初頭、浙江大学ジャーナルが、国際ジャーナルの要件として「国際ピアレビュー方式」を重視することを発表した[4]。2012年に行われたグローバルリサーチカウンシル(GRC)においてもピアレビューという制度の原則は、専門家による審査・評価、透明性、公平性、適合性、機密性、公正さと倫理への配慮、ジェンダー・平等・多様性であるとし[5]、ピアレビュー方式に信頼を置いている。今日でも我が国を始め多くの国の科学界が運用している審査の方式といえ、2020年8月に中国で行われたアンケート調査でも79%がピアレビュー方式を信頼しているという回答が得られている[6]。

 しかし、一方でピアレビュー方式には、審査に伴う時間的・経済的負担に加え、審査の客観性や公平性に影響を及ぼし得る各種のバイアスなどの課題も指摘されていることも事実である。また、研究資金配分における保守的な傾向や、革新的な研究に対するバイアスも指摘されており、申請者の実績を重視する評価が、若手研究者や独創性・革新性の高い研究提案の評価に影響を及ぼす可能性も指摘されている[7]。その結果、社会のニーズに十分に注意を払わないプロジェクトに資金を提供することになりかねないということである。そのようなこともあって一部の政府科学助成機関の査読プロセスにおいて、社会的インパクト指標が重要な考慮事項となりつつあることも確かである。上記中国でのアンケート調査でも審査員によるバイアスを最小限にするため公平性の改善を求めており、これは研究者がダブルブラインド(二重盲検法:申請者も審査員もテーマしか知らない)の審査をより希望していることを表している。

 それでは、中国政府の政府文書では、ピアレビュー方式については、どのような記述の展開がみられるであろうか。2016年7月の「科学技術イノベーション第13次五カ年計画(2016年~2020年)」では、「基礎研究系の研究者による代表作のピアレビュー制度を模索し、国際ピアレビューの役割を一層発揮させる」とされている。また、2018年7月の「プロジェクト審査、人材評価、組織評価改革の深化に関する意見」(中共中央弁公庁、国務院弁公庁)では、「基礎的なフロンティア研究についてはオリジナリティを最優先としてピアレビューの核心とする」とされ、「基礎研究の評価は、国際的な小同業の評議を奨励する」ともされている。このようにあくまでもピアレビュー方式を重視する記述が繰り返されている。

 その後、2020年10月の「国家中長期科学技術発展規画綱要(2021~2035年)」になると、「科学技術評価メカニズムを健全化し、自由探索型ならびに任務指向型の科学技術プロジェクトの分類評価システムを改善し、『非コンセンサス』科学技術プロジェクトの評価システムを確立し、科学技術奨励プロジェクトを最適化する」とされ、「非コンセンサス」(「非共识」)という用語が登場する。さらに2021年3月に発表された「国民経済・社会発展第14次五カ年計画(2021年~2025年)および2035年長期目標綱要」では、「非共通科学技術プロジェクトの評価制度の整備」を提唱している。この段階では未だ制度設計が進行中とみられる。2024年7月の第20期第3回中央委員会決定においては「専門家の実名での推薦による型破りなプロジェクトのための選別メカニズムを確立する」とし、具体的な制度設計用語として「専門家の実名の推薦による」という修飾語が入ったことが注目される。その後、2026年3月の「国民経済・社会発展第15次五カ年計画」で「非合意プロジェクトの選定・資金調達メカニズムを革新し、国家自然科学基金の主要な国家科学技術課題および独創的破壊プロジェクトの規模と割合を拡大する」とされ、いよいよNSFCのプロジェクト実施へと移される様子がみられた。

 実は、この頃米国NSFにおいても、余りにも先導的な応募を落とさないため、リスクを負って推薦する「ゴールデン・チケット(Golden tickets)」の導入を検討していた[8]。また、あえていうのであれば、この「非コンセンサス型プロジェクト」であれ、「ゴールデン・チケット」であれ、中国や米国の独自の着想ということではなく、2016年から2017年にかけてデンマークのファンディング機関において検討、試験的導入が図られた方式である[9]。この方式が徐々に世界の科学界に浸透したということができるであろう。

 さて、中国の「非コンセンサス型プロジェクト」であるが、上記第15次五カ年計画の正式決定を前に2025年からその試験的実施計画が策定された[10]。NSFCが、今年より募集を始める前の2025年には、北京市自然科学基金が非コンセンサス型プロジェクトの募集を始めている[11]。これは中央政府機関が本格的に実施する前に地方政府が先行的に取り組みを開始し、その実績を示すという中国的なやり方であろう。この北京市自然科学基金が選んだ非コンセンサス型プロジェクトでは、Natureに論文が掲載されるような極めて重大な発見をもたらした研究が選定されている[12]。これは非コンセンサス型プロジェクトの先行例として極めて画期的かつ象徴的であり、NSFCとしても自信をもって開始する実績となったとみられる。

 NSFCはいくつかのファンディングのカテゴリーを運営しているが、非コンセンサス型プロジェクトに対しては、特定のカテゴリーが設けられているようである(Original Exploratory Program)。しかし、このカテゴリーに投入される助成金の総額または助成件数など、全体の中でどの程度の比重を示す数字はわからない。また、ここでの審査方式の詳細は、わからない。ただ、これまでの報道を総合すれば、審査員は5ないし10人で、ダブルブラインドで行われ、コンセンサスを得る必要はない、実名による専門家一人が支持すれば、資金支援をするプロジェクトとして審査を通る、ということである。上記のNSFCの発表によれば、提案された研究は、世界の科学技術の最前線、経済の主戦場、国家の重大なニーズ、国民の生命・健康という『4つの方向性』を踏まえる必要があるとされる。また、次の4つの特徴のうち、少なくとも最初の3項目を同時に満たすことが求められる。具体的には、

(1)研究は、重要な科学的意義または技術的価値を有するか、または有する可能性がある。

(2)研究内容は独創的または革新的であり、その分野の専門家の間でまだ合意が得られておらず、非常に議論の余地があるため、従来の審査メカニズムを通じて資金を得ることが困難である。

(3)リスクが高く、研究は高度に探索的であり、既存の科学的知識に基づいて研究計画の合理性や実現可能性を判断することは困難であり、既存の手段や条件を用いて研究を完了させるリスクは高く、実施も困難である。

(4)研究内容は明らかに高度な学際的性質を持っている。

という研究が選定されることになっている。

 申請されたプロジェクトのテーマや件数など詳細はなかなかわからない。報道によれば[13]、NSFCにおける審査において、成功すればノーベル賞受賞に相当する(Nobel-worthy)という議論もあったという。選定されたプロジェクトについても詳細はわからないが、当初の申請数63件のうち、2日間の審査で最後まで残ったのは6件とされ、合格したプロジェクトは3件で、テーマは「存在しない粒子の探索」、「人工細胞の作成」、「太陽系における最初の固体の形成」である。

 また、北京市科学技術委員会によれば、同市自然科学基金における最初の合格プロジェクト72件のうちいくつかが成果を出しているとの報道がある[14]。代表事例は、まず、中国科学院の研究者の提案による「内耳に障害のある聴覚障害者の脳に直接電極を挿入し、聴覚を回復する研究」および清華大学の研究者の提案による「水素製造のための光・熱共触媒法の開発」である。さらに同大学の研究者の提案による「『第三の磁性体』である『交錯磁性体(Altermagnet)』の研究」は、すでにNatureに掲載されるような新しい科学的な成果を生み出している[15]。実際、これらの研究が、いわゆる「0から1」の基礎研究としての成果を生み出すかどうかは、今後の展開次第であろう。

 このような新しい審査あるいは評価方式は、奇しくもアメリカ第一主義に拍車のかかった第二次トランプ政権でもとられようとしている。米国大統領府科学技術政策局(OSTP)のマイケル・クラティオス氏は、2026年7月、"Science: A New Golden Age"を発表した[16]。このトランプ大統領に提出された報告書では、新しいファンディング手法としてNSFがすでに検討していたゴールデン・チケットが再び提起されている。ここでは、ハイリスクの提案によるブレークスルーがコンセンサス方式によって拒絶されないよう、また、肩書き、実績の少ない若手研究者の活躍の場を広げるようにという考えが込められている。世界の科学技術イノベーションを持続的に主導していく上で不可欠と考えられている。欧州イノベーション会議(EIC)が「ホライゾン・ヨーロッパ」で推進する「パスファインダー」も「科学的・技術的に極めて高リスクだが、成功した場合には大きなブレークスルーをもたらす研究」[17]とされており、対象プロジェクトは非コンセンサス型が目指すところに通じるといえる。いずれも米国DARPA方式を採り入れ、ピアレビューの欠点を補っているともいえる。我が国においても第7期科学技術イノベーション基本計画[18]において「新たな資金配分の方策を探り、都度ピアレビューを経るのではなく、それ以前の成果・実績等に連動して配分する仕組み(中略)を検討し」、「研究力を先端的な手法を取り入れつつ多様な視点で分析、評価する手法を検討する」とされ、特に、「革新的な新興・融合研究への研究者の挑戦の促進に向けた研究支援や新たな評価の導入を後押しする」ともされ、「科学研究に破壊的革新をもたらす先導的・先駆的研究」の推進方策が注目されている。

 主要国は、まさに人工知能(AI)、量子技術、バイオ、新材料等をめぐって科学技術イノベーションの先端を開くべく競争を激化させており、競争と協調、開放と制限など新しい研究開発環境の中で未来を開く課題に挑戦している。

 中国は近年、基礎研究への投資を拡充し、研究開発投資総額のうち基礎研究への投資が7.08%(2025年)となっている[19]。2024年7月の中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議決定[20]においては、基礎研究への投資の拡大のほか、「組織化された基礎研究の強化」、「競争的支援と安定的支援を組み合わせた基礎研究への投入メカニズムの改善」、「基礎研究を支援できる立場にある地方、企業、社会組織、個人に対する基礎研究の支援」、「基礎研究で選択されるテーマの多様化」、「ハイリスク・ハイバリューの基礎研究の実施」を掲げている。このように中国の基礎研究の振興に関わる制度構築の努力は、ファンディング方式だけに止まらず、研究体制、組織、規則全般にわたり、より柔軟かつ臨機応変な制度の設計と運用が図られるように見受けられる。非コンセンサス型プロジェクトについても、新しい制度的課題への挑戦の一つとして意義が深いと考える。上述の制度構築の努力の一つ一つについても、詳細な制度設計および具体的な運用を今後フォローしていく必要がある。

 ちなみに、中国において非コンセンサス型の基礎研究のファンディング方式は、民営企業の関心も集めており、北京市は、いくつかの産業部門からの参加を得て政府主導のシステムを構築しており、ここでは、たとえばシャオミ、レノボを始め70社以上の企業が参加し、総額7億元で2300件以上の基礎研究プロジェクトを支援している[11]。

 上述のとおり問題があると言われつつ長年にわたり、ピアレビュー方式が欧米で採用されてきたが、それは科学的な見識をもって科学の先端を開くという科学者の持つ主体性を尊重する制度であったと考える。ある意味では、国家は一歩引いて科学の行く末を科学者に委ね、科学界の自律性を尊重する制度ともいえる。非コンセンサス型プロジェクトは、この制度に一つの大きな問いを投げかけているともいえる。今やAIが科学的探索の道を開き、AIが審査する時代になろうとしている。中国が取り組みを始めた非コンセンサス型プロジェクトという新しい審査方式が、基礎研究の将来にどのような影響を与えるのか、重要新興技術あるいはディープテックに関わる枢要な成果を生み出すのか、地方政府、民営企業も含めてどのような広がりを見せるのかなど、世界の関心が高まっていくのではないか。そして、この分野における中国の取り組みに関する情報が公開され、広く共有されることにより、世界のファンディング方式に新たな展開がもたらされることが期待される。


注釈

[1] 参照:https://www.nsfc.gov.cn/p1/3381/2822/141603.html.

[2] 参照:https://spap.jst.go.jp/china/experiences/education_human/eh_2624.html

[3] 参照:https://public.csr.nih.gov/StudySections

[4] Zhang Yuehong et al,"An international peer-review system for a Chinese scientific journal", Learned Publishing, Vol. 16, No. 2, 01 April 2003.

[5] Global Research Council,「ピア/メリット・レビューの原則についての宣言(2018 年版)(日本語仮訳)」

[6] Mriganka Awati,"What fosters trust in peer review: Perspectives of Chinese researchers", 21 Sep 2020, Peer Review Week 2020.

[7] Alejandra Recio-Saucedo et al,"What works for peer review and decision-making in research funding: a realist synthesis", Research Integrity and Peer Review volume 7, Article number: 2 (2022).

[8] Dalmeet Singh Chawla,"‘Golden tickets’ on the cards for NSF grant reviewers", Nature Index, 24 February 2023.

[9] Thomas Sinkjær,"Fund ideas, not pedigree, to find fresh insight", Nature, 06 March 2018.

[10] 「自然科学基金委将试点实施重大非共识项目」, 2025-07-07.

[11]"Scientists encouraged to embrace "unconventional" ideas for innovation", Xinhua, 26 May 2026.

[12] Ibid.

[13]"China bets on bold ideas in push for disruptive innovation", CGTN, 26 Dec 2025.

[14]"Beijing's non-consensus sci-tech projects produce early results", Orient, March 23 2026.

[15] Zhiyuan Zhou et al.,"Manipulation of the altermagnetic order in CrSb via crystal symmetry", Nature, Vol. 638, pp. 645-650 (2025), 12 February 2025.

[16] Michael Kratsios,"Science: A New Golden Age", Director of the White House Office of Science and Technology Policy, July 2026.

[17] European Innovation Council,"EIC Pathfinder".

[18] 参照:https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/7honbun.pdf

[19]"China hits record R&D spending, unveils innovation push through 2030", Xinhua, 6 March 2026.

[20] 「改革をいっそう全面的に深化させ中国式現代化を推進することに関する中共中央の決定」、2024年7月18日、中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議採択。

 

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