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中国企業が導入を進める産業向け大規模モデルとは

2026年06月24日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より2020年まで中国雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?中国式災害対策技術読本」「中国のインターネット史:ワールドワイドウェブからの独立」(いずれも星海社新書)など。

 大規模言語モデル(LLM)をはじめとした各種大規模モデルを活用した生成AIは、産業界にも浸透している。たとえば、カスタマーセンターでの相談対応でチャット画面が導入される事例があるが、それだけにとどまらず、モノづくりの現場でも導入されている。中国の産業界では、この3年ほどで「試しに使ってみるLLM」から「現場のボトルネックを極力減らす大規模モデル」へと、一気にフェーズが進んでいる。

 ChatGPTやDeepSeekなどでお馴染みのLLMは、プロンプト一つで文書や画像を生成するオフィスワークやクリエイティブ向けの情報アシスタントだ。これに対して、産業向け大規模モデルは、工場長+熟練エンジニア+保守要員が合体したスーパー人材のようなもので、現場の物理的なモノづくりやサービスを指揮する存在となっている。たとえば生産ラインでエラーコードが出た場合、そのエラーコードを参照すれば、どこで問題が起きているかがわかる。大規模モデルを採用することで、その工場の過去数年間の修理履歴に加え、当日の電力使用ピークデータや各種センサー値を瞬時にクロス分析し、「原因はこうです。このように対処すれば復旧します」といった実行可能なアドバイスを返してくれる。

 導入することで現場のプロフェッショナルのノウハウまでも吸収した最適解を出してくれるのが産業向け大規模モデルだ。たとえば石油化学企業の事例では、20人のベテラン作業員から話を聞き、メモや工程手順、事故記録などを確認して40年分の操業経験を抽出する。この知識を産業用インターネットプラットフォーム上のプロセスデータと組み合わせ、石油化学企業に特化した大規模モデルを構築した結果、生産時の不良品の割合が低下したという。また工場において無駄が減り、効率化が進んだという事例も数多くある。

 中国石油は大規模モデル「崑崙」を開発した。エネルギー・化学工業界の全産業チェーン(油田ガス田探査-開発-生産輸送-精製-販売-金融)を対象とした業界型大規模モデルは、声波の全波形解析などの探査領域で、処理周期を従来の20日から3日程度に大幅に短縮し、コストを30%以上削減できた事例が報告されているほか、生産運営・設備保守・燃料管理などでも活用されている。

 たとえば自動車工場の製造工程でも、溶接とコーティングの工程においては、「溶接電流/電圧/速度のプロセスデータ」「溶接部の画像」「塗装面の画像」「作業場の環境パラメータ」を記録する。さらに欠陥発生時の原因の特定と修復に関する経験に基づき、「状況-原因-対応」の知識シートを作成して活用することで、効率化を実現する。発電業界向け大規模モデル「擎源」は、事故リスクが高くて負荷が重いゾーンで、エネルギー取引・火力・水力に加え、近年台頭する太陽光などの再エネのバランス・保守をどう最適化するかという、これまでの人手による作業では難しかった部分について最適解を出す。

 このように規模の大きな会社や組織を中心に、行政・金融・エネルギー・製造・自動車など様々な分野で、すでに大規模モデル導入プロジェクトが稼働している。どんな大規模モデルがあって、どんな産業の企業がどう効率化したかについては、その一部がScience Portal Chinaでも記事化されている(リンク)。

 中国語ソースでわかりやすいものとしては、2024年に発表された「工業大模型市場図譜:53個工業大模型全面梳理」があり、異なる産業の53例が紹介されている。ただ前述の通り、クラウドサービスを利用していた企業が大規模モデルを導入し、アップグレードするため、導入済み企業は53社にとどまらず、何百社、いやそれ以上の規模に達しているだろう。とはいえ、どんな会社が大規模モデルを導入し、どう変わったのかを理解することは、現在の中国企業の強さを知る上で意味がある。

 アリババやバイドゥ、ファーウェイなどの大手IT企業から大規模モデル導入事例を探る手法もある。というのも、産業向け大規模モデルを導入する前段階では、中国企業の多くがアリババなどのクラウドサービスを利用している。アリババなどが産業向け大規模モデルを開発・リリースした後で、顧客が大規模モデルを使ったサービスを追加し、業務を大きく改善するという流れがよくある。アリババなどは顧客を増やすために、導入事例を紹介している。たとえば「アリババの産業向け大規模モデルの2026年の導入事例を知りたい」とAIに尋ねることで、最新の状況を見つけ出すことも可能だ。

 最新の状況だが、中国で2026年3月、AIの基本単位「トークン」の1日当たりの平均使用量が2024年初めと比べて1000倍以上増加し、140兆を超えたと報じられた(リンク)。ここには個人利用もあるが、企業による利用も多く含まれており、採用企業が大幅に増えた結果といえる。

 中国政府は産業向け大規模モデルの開発を国家レベルで強力に推進しており、2025年12月には、情報産業省にあたる工業・情報化部など8部門が「AI+製造」行動計画を、2026年4月には工業・情報化部と国家データ局が「模数共振」行動をそれぞれ発表した(リンク)。前者は2027年までに、製造業で3~5個の汎用産業大規模モデルを本格的に活用し、1000個の高水準な工業AIエージェントを創出するというもの。後者はAIモデルと産業データの好循環を作り出すことで、鉄鋼や石油化学など20の重要産業でのAIソリューションを加速させるというものとなっている。産業界は目標に向けて導入を進め、現場の省人化、省エネ化、効率化を進めることだろう。

 ただ全てが自動化するわけではない。化学プラント、鉱山の安全管理、電力供給といった場面で、産業向け大規模モデルが誤った助言を与えた場合、生産停止や設備の損傷、環境事故、人身事故といった重大な事故にまで及ぶ可能性がある。したがって工場全体を大規模モデルが乗っ取るというわけではなく、特に重大事故に繋がりかねない領域では自動化せず、セカンドオピニオンとして活用するだろう。


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