中国の水素エネルギー産業では、コスト低下や技術進歩を背景に、商業利用が進みつつある。研究者や企業関係者は、このほど開かれた「第10回国際水素エネルギー・燃料電池自動車大会・展示会」で、2030年以降の成長可能性を示す一方、水素ステーションの不足や貯蔵・輸送基準の未整備などの課題も指摘した。科技日報が伝えた。
中国科学院院士で清華大学教授の欧陽明高氏は、「水素エネルギー産業はすでに『デスバレー』を乗り越えた。今後5年間は発展の好機となる」と指摘した。再生可能エネルギーによる発電量が社会全体の電力消費量の50%を超えれば、2030年以降、水素エネルギー産業は急成長期を迎えると予測。中国が2050~60年にかけてカーボンニュートラル目標を段階的に達成するのに伴い、グリーン水素が最終エネルギー消費の10~15%を占める可能性があるとの見通しを示した。
近年、政策面の支援強化も水素エネルギー産業の発展を後押ししている。「水素エネルギー産業発展中長期計画(2021~35年)」は、水素エネルギーを将来の国家エネルギーシステムの重要な構成要素と位置付けた。「エネルギー法」は、水素エネルギーの開発・利用を積極的かつ段階的に推進するとしている。また、「第15次五カ年計画(2026~30年)」綱要は、水素エネルギーや核融合エネルギーを、先を見据えて展開する未来産業に位置付けた。今年3月には、水素エネルギー総合利用試行事業が始まり、2030年までに需要家向け水素の平均価格を1キログラム当たり25元(1元=約24円)以下に引き下げる目標が示された。
中国では、燃料電池車の保有台数と水素ステーションの設置数が世界最多となっている。2025年末時点で、燃料電池車の累計普及台数は3万9000台に達し、水素ステーションは590カ所以上が整備された。燃料電池システムのコストは、当初の1キロワット(kW)当たり1万元から約3000元まで下がった。
コスト低下に伴い、水素エネルギーの商業的価値も徐々に顕在化している。上海汽車集団股份有限公司の祖似傑副総裁兼チーフエンジニアによると、49トン級の水素燃料電池大型トラックでは、100キロメートル当たりの実測水素消費量が8.5キログラムまで低下し、水素の平均充填価格も1キログラム当たり30.42元まで下がった。車両購入補助金や高速道路料金の減免などを加味すると、高速幹線輸送やコールドチェーン輸送では、燃料電池車のライフサイクル全体の運用コストが、同型のエンジン車に対して競争力を持つようになっている。
未勢能源科技有限公司の張天羽董事長は、「需要家向け水素価格が1キログラム当たり25元まで下がれば、水素燃料電池車は商業ベースで事業が成立する。さらに12~14元まで下がれば、化学工業や発電分野における水素エネルギーの大規模利用も本格的に始まる」と説明した。
技術の進歩もコスト低下を支えている。香港城市大学の呂堅講座教授は、水素エネルギーの価格が高い要因として、電力と触媒の価格を挙げた。同教授の研究チームが開発した水素製造用の「チューリング触媒」は、市販の白金担持炭素触媒と比べ、単位体積の水素製造に必要な触媒コストを70%削減できるという。
欧陽氏は、幅広い温度域に対応するプロトン交換膜や大出力燃料電池スタックの量産化が進んでいると説明。2025~30年には、水素の製造、貯蔵、輸送、充填に関するサプライチェーンの整備が多分野での活用を後押しし、グリーン水素が急成長期を迎えるとの見通しを示した。
一方、水素エネルギー産業には依然として多くの課題が残っている。
祖氏は、地域間の需給ミスマッチ、水素充填インフラの整備の遅れ、地域をまたぐ貯蔵・輸送基準の不統一などが、普及規模の拡大を妨げていると指摘した。
フォルシアの水素事業で中国地区総経理を務める潘鋒氏は、ガソリンスタンドに比べて水素ステーションが極めて少ないことに加え、全国の水素ステーションのうち70メガパスカルに対応している施設が10%未満にとどまることが、燃料電池乗用車の普及を妨げていると指摘した。また、コンテナによる水素輸送など、低コストの貯蔵・輸送方法に関する国家規格の整備も急務だとし、今後は安全性、経済的実用性、持続可能性、技術革新の面で取り組みを深める必要があるとの見方を示した。

(画像提供:人民網)