インド「10年で世界的な評価と受賞獲得へ」 新科学技術政策公表へ 草案(2)

2021年4月8日 西川 裕治(元 JST インドリエゾンオフィサー)

インドの新科学技術政策(Science, Technology and Innovation Policy : STIP)の草案のうち、残りの第3章~6章を紹介する。インドの科学技術政策の主要部局である科学技術庁(Department of Science and Technology : DST)のホームページに草案が掲載された。正式な全文は近く公表される見通し。

参考:インド「今後10年で科学超大国のトップ3に」新科学技術政策公表へ  草案(1)

第3章 各項

以下の11の項で構成されており、各項においては、それぞれの「優先事項・課題」と「背景」に加えて「具体的な施策」が示されている。ここでは各項の総論にあたる優先事項・課題&背景についての概要を纏め、各論にあたる具体的な施策の部分については省略する。

  • 第1項:オープンサイエンス
  • 第2項:能力開発
  • 第3項:STI資金調達
  • 第4項:研究(リサーチ)
  • 第5項:イノベーションと起業家精神
  • 第6項:技術開発と固有化(内国化)
  • 第7項:公平性と包括性(E&I)
  • 第8項:サイエンスコミュニケーションとパブリックエンゲージメント
  • 第9項:国際的なSTIへの関与・取組み
  • 第10項:STIガバナンス
  • 第11項:STIポリシーガバナンス

第1項から第11項で示される優先事項・課題、および背景の概要は次の通り。

第1項:オープンサイエンス

  • 1.1 国立STI情報収集・共有システム(オブザーバトリー)
  • 1.2 インドの科学技術アーカイブ
  • 1.3 オープンデータ
  • 1.4 オープンアクセス
  • 1.5  1つの国、1つのサブスクリプション
  • 1.6 インドのジャーナル
  • 1.7 研究施設
  • 1.8 オープンエデュケーションリソース
  • 1.9 ライブラリ
  • 1.10 学習スペース

優先事項・課題&背景

オープンサイエンスを促進するため、中央政府、州政府に支援されたすべての研究成果に対し、一般から直接または間接的アクセスできるようにするもの。それらは、学術出版物、研究データ、研究リソース(インフラストラクチャー、機器、コンピューティング施設、図書類、学習スペースなども含まれる)。

オープンサイエンスは、研究成果へのアクセスの増加、研究における透明性と説明責任の強化、包括性、研究成果とインフラストラクチャーの再利用に対する最小限の制限によるリソース利用を改善し、知識の生産者とユーザー間では、常に交流が成される必要がある。学習とイノベーションを促進するために、公的資金による研究成果とリソースをすべての人が利用できるようにする。STIPは、研究データ、インフラストラクチャー、リソース、知識にすべての人がアクセスできるエコシステムの構築を目指すもの。

第2項:能力開発

  • 2.1 教育と研究
  • 2.2 スキルの構築とトレーニング
  • 2.3 インフラストラクチャー

優先事項・課題&背景

STIPの目標は、すべてのステークホルダーと協力して機能するためのさまざまな責任を果たし、科学的気質、質、アクセス、公平性を開発し、市民権教育を取り入れることにより、全体的な成長と発展を促進する。また、高等教育と産業の連携を促進し、経済システムを刷新する。研究開発インフラストラクチャーを構築する。平易で公平なアクセスを備えたその効果的な使用法は、STIエコシステムを強化するもう1つの側面である。高度な技術の効果的な使用は、研究開発と革新の卓越性につながる学習成果、科学教育の質、公平なアクセスを改善するために、大いに必要とされている。人文科学、社会科学の間のより重要なインターフェースを促進する学問分野は必要である。また、職業教育における起業家のスキルを促進するために、科学技術部門、産業界、および教育機関の間のコラボレーションを強化する。

STIPは、科学的気質を浸透させ促進し、革新を育み、国の多様なニーズに応えるために必要な科学技術への持続的な投資を目指している。このポリシーは、今後10年間で世界トップの受賞や表彰を達成するための推進力を個人と機関に与えることを目的としている。

この項では、国の研究とイノベーションを加速し、教育システムと研究を通じた教育と学習、そしてあらゆるレベルでの教育をより包括的にして経済と社会と結びつける。これには、「国家教育政策2020」(NEP)で示される方向でのイニシアチブが含まれる。

第3項:STIの資金調達

  • 3.1 STIの資金調達環境の拡大
  • 3.2 STI投資のインセンティブ
  • 3.3 STI共同資金調達モデル
  • 3.4 STIの資金調達状況のガバナンス

優先事項・課題&背景

インドの研究開発に対する国内総生産は、他国と比較して低い。民間セクターの投資が不十分で、直接的な財政支援、公共調達戦略、研究開発活動を実行するインセンティブも不十分である。また、外国のSTI投資の活用は限られており、全体的な財務管理体制も脆弱である。

金融環境の整備は、STI主導の“Atmanirbhar Bharat”(「自立したインド」の意)を作り上げる上で中心的な役割を果たす。この政策は、政府の財政および産業政策と連携して公的部門および民間部門を引き付けるために不可欠である。このセクションでは、自立と技術競争力を達成するための財務戦略の概要が示されている。それは、共同資金調達メカニズムの中心的な役割を持つ学術界の参加により、公的および国内外からの民間STI投資を強化するもの。国のSTIエコシステムへの民間部門の参加を刺激するために、財政的インセンティブと支援を強化する必要がある。戦略的な技術的成長を推進するために、STI投資は、一元化されたプログラムを通じて国の優先事項の重要領域と整合する必要がある。このプロセスは、金融の自律性を目的とした効率的なガバナンスを通じて、国家のSTI金融当局によって強化される。

第4項:研究(リサーチ)

  • 4.1 S&Tシステムの拡大:基礎研究とトランスレーショナルリサーチの促進
  • 4.2 研究の質的向上
  • 4.3 ステークホルダーのニーズに密着した研究
  • 4.4 研究のしやすさ

優先事項・課題&背景

インドを戦略的研究分野において世界的に競争力のある国として浮上させ、国家としての重要な問題に焦点を当てる。優先分野での研究開発活動に特に重点を置く。現在の研究上の弱点を克服し、人々の幸福と繁栄に資する主要分野を強化する。研究をリードするために、優先セクターにおけるミッションモードプログラムに焦点を当てる。それは強力な基盤の上に構築された基礎研究を踏まえ、技術とイノベーションの成果物を備えたものであるべき。研究は目的に適合させ、質を高め、研究のしやすさを向上させる。

過去10年間で、インドは主要な知識生産国として浮上し、上位5か国にランクインしたが、研究のインパクト面では、インドの学術的引用は上位10か国にとどまった。特許出願総数も上位10か国となった。
この項では、急速に変化する世界で、目的に合致し、かつ説明責任のある研究エコシステムを変革、構築するための戦略が示されている。

第5項:イノベーションと起業家精神

  • 5.1 イノベーションエコシステムの強化
  • 5.2  S&T対応の起業家精神の育成
  • 5.3 草の根のイノベーションと研究およびイノベーションエコシステムの統合

優先分野・課題&背景

持続可能な経済発展と世界的な競争力を達成するためのイノベーションエコシステムを強化する。シーディング、維持、成長を可能にし、インドの科学技術起業家精神を成長させるエコシステムを構築。また、伝統的知識システム(TKS)と草の根でのイノベーションを教育、研究、イノベーションシステムに統合する。

STIへの体系的な投資で、国の将来の産業部門を創出、形成、維持するだけでなく、社会全体の経済発展のために科学研究の利益・成果物を提供する。幅広いイノベーション活動への参加を奨励し、イノベーションと起業家精神の将来展望を強化するための包括的なサポートフレームワークを構築する。この章では、革新的なエコシステム全体を強化するための戦略の概要が示されている。

第6項:技術開発と固有化(内国化)

  • 6.1 「自立したインド」のための技術固有化
  • 6.2 テクノロジーと持続可能性
  • 6.3 戦略的テクノロジー
  • 6.4 破壊的技術
  • 6.5 重要なセクターと可能なアプローチ
  • 6.6 学術部門における技術開発の強化

優先事項・課題&背景

インドは、優先分野における技術の輸入に大きく依存している。国内の技術成熟度レベル(TRL)は、他国と比較して低い。メガサイエンスプロジェクトに参加して、技術的コアコンピタンス(競合相手を圧倒的に上回るレベルの能力)を構築し、他セクターに利益を及ぼすために、さらなる課題がある。技術の固有化を達成するための障害としては、学術研究とポストアカデミック研究(PAR)間のリソースの不均衡な割り当てや、人材の活用、利害関係者間の連携、さらには、開発、展開商業化の戦略の欠如などがある。

この項では、テクノロジーの自立と固有化を通じて「自立したインド」というより大きな目標を達成するために、STIエコシステムを強化するための戦略が示される。教授陣と学生による産業活動を尊重する文化・意識の創造に加えて、人工知能、バイオテクノロジー、グリーン製造、サイバーセキュリティ、協働ロボットなどの新テクノロジーツールを採用し、実証済みの従来の方法を再学習し、実装、構築する必要があり、技術のスケールアップと大規模展開を促進するために、体系的な相互リンクを強化する。

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つづく

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