インド交通渋滞改善プロジェクトにチャレンジ!(3)

2021年7月14日

坪井 務

坪井 務(つぼい・つとむ):
名古屋電機工業
新事業創発本部SATREPSプロジェクト
プロジェクトリーダー(博士)

<略歴>

1955年静岡県生まれ。79年日立製作所入社、重電モーター設計に従事し、87年半導体事業に異動、弱電技術最先端に専門を移す。97年日立アメリカに出向、米国のシリコンバレーの空気に触れる。2000年半導体事業部に帰任し、自動車分野での半導体開発を担当。03年ルネサステクノロジーに出向、10年日立製作所スマートシティ統括本部でスマートシティ事業従事。両親の介護の関係で12年浜松地域イノベーション推進機構に、14年名古屋電機工業に入社。

参考:インド交通渋滞改善プロジェクトにチャレンジ!(2)

前回触れた地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の実践の中から、今回は、現地フィールドにて実施した実証試験の概要と、その中で分かってきたインド側と日本側での研究に対する相違に関して紹介する。

インドにおける交通問題は、現地においては日常のこととして問題であるとの認識はしつつも、果たしてどのようにしたら改善につながるかについて、まだその方向性を見出せていないのが実情といえる。2014年にモディ政権が推進するとした100のスマート都市を創るという施策は、一定の成果を上げつつも根本の解決にまでは至っていない。ごみ問題、スラム問題、そして我々のプログラムのテーマにも掲げている交通渋滞問題と様々な課題に対する取り組みが行われてきた。今回のコラムでは、本テーマの交通渋滞に関しての話題を解説し、その中で行った(現在も進行形である)実証試験に焦点を当てる。

そもそも交通渋滞は、現地のインド人たちもそれなりの理由は既に把握しているといっても良い。すなわち、経済発展の加速により「人」「もの」の移動の需要が高まるなかで、運搬のため移動手段である車両の増加が極めて大きい。今回のプログラムで取り上げた都市は、まさにモディ政権の発足の地でもあるインド西側にあるグジャラート州のアーメダバード市を対象としている。同市の規模感は、2011年の人口センサスでは557万人であったのが、2020年には約800万人にも拡大しており、交通車両数に関しては2011年で170万台であったのが、2017年の記録では約400万台に及ぶ伸びとなっている。なかでも顕著なのは車両の70%が2輪車となっているものの、近年では4輪自家用車の増加傾向がみられ、将来のさらなる交通渋滞が起こることは容易に推察できる。一方で、公共交通に目をやるとアーメダバード市は先進的にバス専用路線(Bus Rapid Transit:BRT)が整備されており、市内には約150カ所のバス停が配置され、市民の足にもなっている。以下の写真は、BRTのバス専用レーンやオートリキシャ―(3輪車)の駐車場、バス専用レーンと交差する道路を走る一般車両の風景を示す。

BRTのバス専用レーン(左)、バス停に隣接したオートリキシャ―(3輪車)の駐車場(右上)、バス専用レーンと交差する道路を走る一般車両(右下)。

オートリキシャーの奥に見える「P」マーク(写真右上)がオートリキシャーの駐車許可を意味しており、そこには駐車可能な台数も示されている。バス利用客へのバス停から目的地までのいわゆるラストワンマイルの足としてオートリキシャーを利用する仕組みとなっている。バス通過後の一般道ではバイクや自動車が横断しており、バス専用レーンとの差は歴然で、アーメダバード市でのBRTは一応成功している部類の利用状況となっていると言える。一方で都市によっては、BRTがうまく利用されていないケースもある。例えばアーメダバード市より南に位置するスーラト市ではBRTの乗客率はかなり低い状態となっており、市政府のコミッショナーからも説明と悩みを聞くことができた。後に知ることとなったが、スーラト市政府のこのコミッショナーは、実は以前アーメダバード市政府の副コミッショナーで、筆者が本プログラム開始時点で一度アーメダバード市にてお会いしていた方であった。先方は筆者のことをよく覚えており、成功事例でもあるアーメダバード市の例を是非ともスーラト市にも展開してほしいとの熱い思いを聞くことになった。次の写真は、市政府の交通管制センターに招待され、説明をうかがっている風景を示す。

手を上げて指示するスーラト市のコミッショナー(左)。交通管制センター内で市政府の交通改善に関するプレゼンテーションの一例(右)。

さて、本題の実証試験に話を戻し、その中の代表例を解説する。同市の地域行政であるAhmedabad Municipal Corporation(AMC)は、市役所的な役割を担った地方自治体であり、人口100万人以上の都市に置かれ、地域の医療、教育、住宅、輸送といった地域に必要なコミュニティーサービスを提供している。このAMCのトップであるコミッショナー、副コミッショナーには、SATREPS開始の時点から支援を頂くことができた。ここでは実証試験の内容を紹介する。現在も進行形で進めているアーメダバード市での実証試験は、以下の2種類を用意している。

(1) 市内に設置された情報板(Variable Message Sign:VMS)を活用し、道路交通情報以外の情報を提供し、その情報によりドライバーへの積極的な行動変容を促すというものだ。道路情報以外の情報には、地域天気予報と降水による冠水の可能性がある。そのほか、渋滞緩和のため現在建設中のメトロが運行した暁には積極的なメトロ活用をPRする案など様々な情報提供を検討している。市内に設置されている情報板の例を次の写真に示した。

情報板(VMS)の画面半分にインド訪問中だった安倍晋三首相(当時)とインドのモディ首相が紹介された(左)。両首脳はアーメダバード市で会談する機会があり、そのPRを市行政との連携で表示した。右の写真はクラクションの騒音が激しいインドならではの交通状況に対して、マナー向上を喚起する例を示している。今後、提供する情報により市民へのアピールがどの程度あるか、継続的に調査を進める予定。(写真提供:株式会社ゼロ・サム)

(2) もうひとつは、インドでも普及が高いスマートフォンを活用して、人々の行動パターンを把握し、利用交通手段の把握を行う実証試験である。SATREPSにて、目的地までの交通手段について自家用車以外の選択もできるスマートフォン用のアプリを開発し、市民に提供する。これによって、出かける前に、いろいろな交通機関の選択を把握でき、交通渋滞を避けた最適な交通手段へのガイドを目指すというものである。既に市場にはこういったナビゲーションを提供するソフトは流通しているものの、今回提供するアプリでは、アーメダバード市のバス専用路線(BRT)の実際のリアルタイム運行情報とリンクする。これによって、BRTの利用を高めると同時に、降車したバス停から目的地までの交通手段としてオートリキシャー、あるいはタクシーの値段も表示することで、目的地までのトリップ時間と費用のイメージを住民に提供する。特に公共交通の運行管理が難しいインドにて、実際の運行している時間と連動している点で、これまでの市場で使用されているアプリとは一線を画している。また、表示内容に使用した交通機関に応じた二酸化炭素(CO2)排気量を、「葉」のマークの数でエコ度を表示する工夫がされており、今後のCO2削減に向けた意識向上の意図も含まれている。

ここで、現地での実証試験でのエピソードを紹介する。実際にアプリの操作性を含めてインド工科大学ハイデラバード校のメンバーにも援助頂き、実際にアーメダバード市にて市民から被験者を募り、BRT―オートリキシャーの乗り継ぎの検証を実施した。今回は自家用車ではなく、実際の勤務先まで往復アプリを利用してもらい感触を頂くというものであった。そのため、バス停から目的地までのオートリキシャーを事前にプログラム側にて準備し、同じ方向に向かう数名がまとめまった時点でオートリキシャーのシェアリングを行うというものであった。実際は予定していたオートリキシャーのドライバーが時間に現れなかったり、あらかじめお願いした被験者が時間通りに現れなかったりで、現場ではさまざまな困難に遭遇することになった。計画は1週間単位の3回を予定していたものの、支援頂いた学生には不評で2回実施したところで終了となった。実証試験自体は一生懸命実施いただいたものの、実際のデータ集めするための事前のアレンジやオートリキシャードライバーとの交渉等に関して、プライドが高い大学の学生からすると自分たちが行うレベルの作業ではない愚痴をこぼしながらも、しっかりとすべきことはこなしてくれていた。だが、3回目は勘弁してほしいという結果となった。ここにインド特有の階級意識を垣間見ることができ、本来であれば現場の困難さを経験してこそ実証試験の価値がある点への理解を得る難しさを経験した。日本であれば学生からはあまりこういった反応はないと思われるが、筆者にとっては良い経験を得ることになった。

図:スマートフォンのアプリ画面例

次回は、プログラムに大変な援助を頂いている地方行政に関して、本プログラムへの関心の高さと、期待の大きさの一部を現地で開催したワークショップを例に紹介する予定。