「日本の企業社会と労働文化への提言」 日本で就業したインド人エンジニア達は何を見たか アンケート➂

2022年04月25日

小林クリシュナピライ憲枝

小林クリシュナピライ憲枝(こばやし・くりしゅなぴらい・のりえ):
長岡技術科学大学 IITM-NUT
オフィス コーディネーター

<略歴>

明治大学文学部卒。日本では特許・法律事務所等に勤務した。英国に1年間留学、British Studiesと日本語教育を学ぶ。結婚を機にシンガポールを経てインドに在住。現在はインド工科大学マドラス校(以下IITマドラス校)の職員住宅に居住している。長岡技術科学大学のインド連携コーディネーターを務めるとともに、IITマドラス校の日本語教育に携わる。

参考:「日本語しか通用しない壁」日本で就業したインド人エンジニア達は何を見たか アンケート➁

世界のIT業界を牽引するインドの若きエンジニアたち。日本語学習経験や、日本での留学経験、インターンシップ経験を経て、日本企業に就職したり、母国に戻って日印の懸け橋として働いたりしているインド人エンジニア達に実施したアンケートの後編を紹介する。アンケート回答者は12人で、インドトップのインド工科大学(IIT)卒を中心とし、全員工学系。

国立自然公園内に設置された自然豊かなキャンパスにはシカの姿も

広大な リサーチパーク=いずれもインド工科大学マドラス校(IITM)(写真提供:筆者)

5.日本の企業社会と 労働文化について:

インド人エンジニア がアンケートに回答したうち、日本の企業社会 と労働文化の印象は以下の通り。彼らの日本での就業経験から学びが見て取れる。その一方で日本への注文も。

<長所>

  • 日本の大学の研究室でも行われているように、会社でも、週例のミーティングがある。各自が前週の業務、直面した課題等を情報共有し、それらに対する批評や援助を得られ、効果がある。
  • 日本の会社は研修に力を入れ、従業員が仕事に適応、熟練する機会が与えられる。
  • 日本の会社は、規律性があり従業員志向である。
  • 日本の良い会社は、素晴らしい展望と目的を持っており、最新のテクノロジーを取り入れている。
  • 企業間で他者から学ぶ姿勢があり、情報交換をし、同業他社間でパートナーシップを結んだり取引を行ったりすることもよくある。
  • 日本では、一つの会社に30年から40年勤務し続けることは珍しくない。内部での部署間のローテーションシステムを伴う長期雇用では、昇進しながら様々な仕事を経験し、上席の地位に就いた時に正しい判断ができるようになることが期待されている。
  • 結果のみならず、努力に価値を認める。(筆者注:インドは成果主義)
  • タイムラインと期限を厳密に守りつつ、時間をかけて、時間の試練に耐える強固なプロトタイプを作製する。(筆者注:インドではタイムラインはゆるやか。プロトタイプは早く作製しようとする。必ずしも製品に限らず、事業計画についても同様の傾向)
  • 会社の大小の規模に関わらず、安全、最高の品質、よりよいユーザー体験を提供することを最優先とし、ここに大きな誇りを持っている。
  • どのような仕事であれ、仕事に対して誠実、責任感があるところは日本の会社と日本人の素晴らしいところ。信頼できるビジネスパートナー。
  • 完璧な職場環境と任務の遂行の円滑さ。
  • ワーク・ライフ・バランスがよい。作業負荷は多くない。

<改善できるところ>

  • 勤務時間に厳密。規則を盲目的に順守しがち。有給休暇を取りやすくするべき。(筆者注:インドは自由度が高い傾向)
  • 電子承認システムの遅れ。 (筆者注:インドはペーパーレス化が進んでいる)
  • 功績ベースではない階層的な企業構造。階層構造に対する若い層と女性からの変革の要望。終身雇用と年功序列ベースの報酬制度の再考が必要。討議や交渉の機会が少ない。志のある若者が、上司に干渉されずに慣例にとらわれない判断をすることが認められるべきだ。(筆者注:インドの会社は、東洋的より西洋的。フラットな階層、柔軟性、健全な競争、若い層の仕事への信頼などが長所)
  • 専門家は概して保守的。 (筆者注:インドは、より高リスクな決定が支持されやすい。卓越した結果をもたらすため)
  • 全てのことに完璧主義であるがゆえに、イノベーションを遅らせる傾向がある。 (筆者注:インドは、始めてから場当たりで修正していく傾向)
  • 会社内部のプロセスの現代化に時間がかかるため、グローバルプラットフォームでの進化も遅れることにつながる。
  • 日本人は日本語以外の言語も使いこなせる能力を身につけ、日本語を話せない人たちに寛容になるべき。日本で円滑に働くためには、日本語能力検定のN2級程度は必要。
  • 日本の良い会社にもっと英語環境が取り入れられれば、より多くの優秀なグローバル人材が集まる。
  • 日本企業で信頼を得るのに時間がかかる。会社によっては、いまだグローバルな労働文化へのサポートや、グローバル人材の上層部への受入れに及び腰であることから、グローバル人材からの信頼が低くなる。従業員が将来にわたって安定した地位を得られることに自信を感じて長く働けるように、会社と従業員間の信頼関係は円満なものにすべきだ。
  • ワーク・ライフ・バランスの改善が必要。(筆者注:ワーク・ライフ・バランスについては、個々の状況から、賛否が分かれた)

=つづく

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