人材育成分野で連携―インド北東州のポテンシャルとIITグワハーティー(Guwahati)③

2022年08月19日

松島大輔

松島大輔(まつしま だいすけ):
金沢大学融合研究域 教授・博士(経営学)

<略歴>

1973年金沢市生まれ。東京大学卒、米ハーバード大学大学院修了。通商産業省(現経済産業省)入省後、インド駐在、タイ王国政府顧問を経て、長崎大学教授、タイ工業省顧問、大阪府参与等を歴任。2020年4月より現職。この間、グローバル経済戦略立案や各種国家プロジェクト立ち上げ、日系企業の海外展開を通じた「破壊的イノベーション」支援を数多く手掛け、世界に伍するアントレプレナーの育成プログラムを開発し、後進世代の育成を展開中。

参考:日本と歴史的連結性―インド北東州のポテンシャルとIITグワハーティー(Guwahati)②

旧法で認可された7校

これまで2回にわたって、インド北東州(Seven Sisters)の地政学的な重要性と、日本が日印協力において、なぜこの地域が重要なるかについて、話を進めてきたところである。今回はこうした日印の連結性協力を前提に、これまでどちらかといえば、インフラ整備に力点が置かれてきたこのインド北東州に対し、人材育成などの視点でどのような協力が可能か、そのあたりをまとめていく。

その中核として位置付けるべきは、IITグワハーティー(Guwahati)である。IITグワハーティーは1994年に創設され、IIT(Indian Institute of Technology)のなかでは、6番目とされ、旧工科大学法に基づいて認可された。如才なきことながら、IITはインドが国として重点的に工学や科学技術の研究に注力する機関としての国立大学の総称であり、現状はインド全土でIITは23校に及ぶ(別添の表参照)。独立直後の1951年、ジャワハル・ネルー首相(当時)は、最初のIITをカラグプル(Kharagpur)に創設した。著者も前職長崎大学のデータサイエンス系の新学部創設に先立って、IITカラグプルを訪問させていただいたが、コルカタからもだいぶん遠いところに位置しており、新たな学園都市創設を目指すインド政府の意思を感じたものである。

その後、1958年にIITボンベイ(Bombay、現Mumbai)、1959年にIITカーンプル (Kanpur)とIITマドラス(Madras、現Chennai)、1963年 にIITデリー(Delhi)をそれぞれ創設した。このIITグワハーティーはこれらの創設から30年以上の時を経て誕生したことになる。筆者は職業柄、こうしたインドのIITと大学間連携等の交渉を進めるお手伝いをさせて頂くことが多いが、その時の印象としては、インドのIITでも、旧法によって認可された7校については、特に歴史があるところほど、「敷居の高い」という感想を持つ。ちょうど日本の戦前に存在したナンバリング・スクール、旧制高校の矜持に通じるものがあるのだろうか。著者の住む金沢も第四高等学校の歴史があり、このため四高の伝統が卒業生の「アカデミック・プライド」や「シビック・プライド」に通じている。

ちなみに、その後、2001年に創設されたIITルールキー(Roorkee)で旧工科大学法による設置認可の時代は終わる。その後、2011年に同法の改正が行われ、新たに8つのIITが創設され、バナラシ・ヒンドゥー(Banaras Hindu) 大学がIITヴァラナシ(Varanasi)として認可された。さらに近年では、2015~16年の間に、さらに6つのIITが認可され、ダーワッド(Dharwad)にあるインド鉱山学校もIITの列に加わることで、現在の全インドIIT23校体制が完成した。

JICAがハイデラーバード校に協力

日本も2008年にアーンドラ・プラデーシュ州の州都ハイデラーバードに創設されたIITハイデラ―バード(Hyderabad)については、国際協力機構(JICA)によるハードとソフト両面による協力を進めている。2018年11月には創設10周年記念式典とシンポジウムがハイデラーバードで開催され、筆者も当時、東京大学インド事務所所長であった吉野宏先生の導きで参加させて頂き、IITハイデラーバードで経営学に関する特別講義を提供させていただいた。「Re-startupの理論と実践」をテーマに講義を行ったが、参加したIITの学生たちも、日本の産業構造の独特の背景や、これらを前提とした中堅・中小企業の産業集積を活用した新たな「破壊的イノベーション」政策に関心を持ってもらい、日本への留学の可能性についても手ごたえを感じたものである。

インドのIITの23校

IITs 設立年 所在州
IIT カラグプル(Kanagupur) 1951年 西ベンガル州
IIT ボンベイ(Bombay) 1958年 マハーラーシュトラ州
IIT カーンプル(Kampur) 1959年 ウッタル・プラデーシュ州
IIT マドラス(Madras) 1959年 タミル・ナードゥ州
IIT デリー(Delhi) 1963年 デリー首都圏
IIT グワハーティー(Guwahati) 1994年 アッサム州
IIT ルールキー(Roorkee) 2001年 ウッタラーカンド州
IIT ガンディーナガル(Gandinagar) 2008年 グジャラート州
IIT ハイデラーバード(Hyderabad) 2008年 アーンドラ・プラデーシュ州
IIT パトナ(Patna) 2008年 ビハール州
IIT ローパル(Ropar) 2008年 パンジャーブ州
IIT ブバネーシュワル(Bhubanesvar) 2008年 オリッサ州
IIT ジョードプル(Jodpur) 2008年 ラージャスターン州
IIT インドール(Indor) 2009年 マハーラーシュトラ州
IIT マンディー (Mandi) 2009年 ヒマーチャル・プラデーシュ州
IIT ヴァラナシ(Varanasi) 2012年 ウッタル・プラデーシュ州
IIT パルガート(Palakkad) 2015年 ケララ州
IIT ティルパティ(Tirupati) 2015年 アードラ・プラデーシュ州
IIT ダンバード(Dhanbad) 2016年 ジャールカンド州
IIT ビラーイー(Bhilai) 2016年 チャッティースガル州
IIT ゴア(Goa) 2016年 ゴア州
IIT ジャンムー(Jammu) 2016年 ジャンムー・カシミール州
IIT ダーワッド(Dharwad) 2016年 カルナータカ州

ドローン研究のCEO(卓越センター)立ち上げ

以上の通り、IITグワハーティーは、IITのなかでも旧法において設立されたことからIITのステータスが高く、また北東州の中核拠点であるアッサムに所在している。また歴史的にも、1985年8月15日、ニューデリーでラジブ・ガンディ(Rajiv Gandhi)首相(当時)立ち会いの下、インド政府と全アッサム学生連合(AASU)との間で結ばれたアッサム合意に基づいて、創設されたという経緯を有する。実はこの運動こそ、周辺国からの移民の受け入れをめぐる政治的な混乱に終止符を打つものであったとされる。2019年12月に予定されたグワハーティーでの日印首脳会談が幻になったことを思う時、歴史は繰り返すことに思いを致す。

最近、IITグワハーティーの国際連携担当者とお話する機会があったが、いくつか特徴的な点を見つけることが出来る。特に研究分野では、北東州、アッサムの降雨量に着目し、気象分野や災害分野、或いは先に言及した竹などの独特の植生の生態やそれらを活用した建材、さらに食品加工などの分野でも共同研究や、実証が進む可能性がある。2014年4月にIITグワハーティーと交流協定を締結した岐阜大学は、他の日本の大学に先駆けて交流を進めている。

またIITグワハーティーのユニークな点として、2021年、インドで初めて、ドローンなどの無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)、あるいは無人航空機システム(UAS:Unmanned Aircraft System) 技術と人工知能(AI)の研究分野を対象とした、CEO(Center of Excellency:卓越センター)を立ち上げたことが挙げられる。ここでは、山岳地帯でインフラの整備が遅れている北東州地域において、ドローンデータの全体的な管理を行い、自然条件によって孤立しているような遠隔地における緊急物資や医療の支援のための、貨物ドローンサービスのため、「AXOMドローンポート」を進めるとのことである。既にインド政府は、2021年8月に新ドローン規則を発表、ドローンの製造業者向けの生産連動型優遇策(PLI:Production Linked Incentive)を導入している。このPLIスキームは、2020年11月に、インド国内の製造業振興を目指し、新たな分野として、自動車・自動車部品やセル電池など主要10分野を新たに対象に加えると発表したものである。さらに、モディ首相が発表した通り、2030年までにインドをグローバルなドローンのハブになるというビジョンを打ち出している。

AOTSとの連携で協定締結

IITグワハーティーの取り組みで、日本との連携で特質すべきは、AOTS(Association of Overseas Technical Cooperation and Sustainable Partnership: 一般社団法人海外産業人材育成協会)との連携に関する協定締結である。2020年3月、IITグワハーティーはこのAOTSと人材育成分野や産学連携分野での協力に関する覚書を締結したのである。その具体的な協力については、企業のPR行事や寄付講座によりIITグワハーティーの学生の日本企業への就職意欲を高め、就職に繋げるための取り組みの可能性について調査を行ったところである。またIITグワハーティーについては、スズキ自動車株式会社が、いわゆる冠講座を提供するかたちで、対応することとなっている。ご存じの通り、インドの自動車産業において、スズキ自動車(マルチスズキ)の存在は忘れることができない。なぜなら、インドにおける自動車のシェアの割合では、スズキ自動車が40%を超えており、インドの自動車の半数近くが日本のスズキ自動車製ということになる。このレバレッジを生かしながら、AOTSと連携して人材育成を進めていくことが、当該MoU(了解覚書:Memorandum of Understanding)の目的となる。ちなみにAOTSは、インドでも大変評判の良い日系の組織で知られており、インド南部のチェンナイなどではAOTS同窓会が開催されているところでる。こうした状況を踏まえて、AOTSの今後のインド展開の拡大を希望するものである。

=このシリーズ終わり

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