「研究拠点の拡大: ディスカバリー・キャンパス」―IITマドラス校が高評価の理由⑤

2024年3月28日

小林クリシュナピライ憲枝(こばやし・くりしゅなぴらい・のりえ):
長岡技術科学大学 IITM-NUTオフィス コーディネーター

<略歴>

明治大学文学部卒。日本では特許・法律事務所等に勤務した。英国に1年間留学、British Studiesと日本語教育を学ぶ。結婚を機にシンガポールを経てインドに在住。インドでは、チェンナイ補習授業校、人材コンサルティング会社、会計事務所に勤務後、現在は、長岡技術科学大学のインド連携コーディネーターを務めるとともに、インド工科大学マドラス校(以下IITマドラス校)の日本語教育に携わっている。IITマドラス校の職員住宅に居住している。

今回は、本シリーズ①[1]で概略を紹介した、IITマドラス・ディスカヴァリー・キャンパス[2]について詳しく報告する。

IIT マドラス校の研究拠点が急速に拡大していることと、今後10年程で世界クラスの研究施設を迅速に構築する必要性を考慮して2017年、チェンナイ市内から30㎞程南のタイユール地区に、研究キャンパス用の土地をタミルナドゥ州から取得した。キャンパスの敷地面積は、約66万平方メートルである。

IITマドラス校ディスカバリー・キャンパス内の代表的な施設として、以下の2拠点を紹介する。

1. 港湾・水路・沿岸国家技術センター (National Technology Centre for Ports Waterways and Coasts / NTCPWC)[3]

本プロジェクトに関して、センター職員の長である、K. ムラリ教授(Prof. K. Murali)にインタビューした。

K.ムラリ教授

NTCPWCはナレンドラ・モディ首相とインド政府の「自立インド」構想に沿って、港湾・海運・水路省の支援を受け、港湾、沿岸および内陸の水上輸送における「メイク・イン・インディア」の強化と、最先端の技術と応用製品の開発のために、7億2千万ルピー(約13億円=1インドルピーを1.81円で換算)をかけて、IITマドラス校ディスカバリー・キャンパス内に設立された。面積は、約1万6千平方メートル。

2021年2月定礎式で首相により礎石が築かれ、2023年4月に港湾・海運・水路担当大臣によって竣工式が行われた。

NTCPWC外構

NTCPWC内部の試験水槽
(写真は共にIITマドラス校の提供)

同センター設立の目的は、科学的支援を通じて業界が直面している問題を解決し、地方、地域、国家、国際レベルでの海上輸送における価値ある教育、応用研究、技術移転を提供することである。

土砂輸送、航海、浚渫(しゅんせつ/ Dredging)と沈泥(Siltation)、港湾と海岸工学、自律型プラットフォームと車両、流体力学、海洋再生可能エネルギーなどの分野における学生、産業界、学者のためのユニークで活気に満ちた知識センターとして機能する。

特定の業界分野にカスタマイズされたソリューションを提供できるため、海外の研究所/コンサルタント会社やその高価な製品/ソリューションに依存する必要がなくなる。

NTCPWCには、 5 つの最先端の研究室がある。 これらの中で特に注目に値するのは、

  1. 1) 港湾および水路用の大規模な浅水施設である堆積物管理および試験池(Sediment Management and Test Basin / SeMaTeB)
  2. 2) 統合船舶追跡・監視システム(iVessel Tracking & Monitoring System / iVTMS)
  3. 3) e-ナビゲーション製品を開発する海洋情報通信研究所

である。

NTCPWCは政府の支援を受け、デジタル化、スマートセンシングと通信、自律システムとロボティクス、インテリジェントナビゲーション、高度なデータ分析、次世代スマートポートの開発における実質的な研究活動を通じて世界レベルで貢献するという次のステップに向けて構想を練っている。 このセンターは、インド海事ビジョン2030およびアムリット・カール・ビジョン2047*1に沿って、海事デジタル化、ロボット工学などに関する世界クラスの研究所を設立することも目指している。

  1. *1アムリット・カール・ビジョン:インド政府が2023年に発表した長期開発ロードマップで、独立100周年となる2047年までにインドが先進国となることを掲げている。

2. ハイパーループと試験施設[4]

本シリーズの「高水準のクラブ活動がインキュベーションを促進」―IITマドラス校が高評価の理由② [5]で紹介した、学生のクラブ活動の1つである、「アヴィシュカル・ハイパーループ / Avishkar Hyperloop」チーム[6]が躍進している。

今年度は、スコットランドで開催された ヨーロピアン・ハイパーループ・ウィーク2023において、ハイパーループ開発の社会経済的側面、ガイダンス部門、センスとコントロール部門の3点で受賞した。

IITマドラス校のハイパーループ・プロジェクトの長で、自身も「トゥトゥル・ハイパーループ / TuTr Hyperloop」スタートアップを率いるサティヤ・チャクラヴァルティ教授(Prof. Satya Chakravarthy)にインタビューし、同校のハイパーループ・プロジェクトの状況について聞いた。

サティヤ・チャクラヴァルティ教授

同校のハイパーループ・プロジェクトの学生チーム「アヴィシュカル」には、サティヤ教授が率いるスタートアップ企業 「トゥトゥル・ハイパーループ」が協力し、インド鉄道省、建設大手のL&T社も重要なパートナーになっている。

さらには、今年1月に、鉄鋼大手のアルセロールミタルと、アルセロールミタル新日鉄インド (AM/NS) の両社の、同チームへの協力が発表された[7]。両社は、IITマドラス校ディスカバリー・キャンパスでのハイパーループ試験トラックの建設をサポートするため、基礎鋼材、エンジニアリング、設計、プロジェクト管理の専門知識を提供する。また、現場で400メートルの真空管を製造するための鋼材400トンを供給する一方、アルセロールミタルの設計・エンジニアリング部門のエンジニアがプロジェクトの監督を支援する。

この真空試験施設は、近く稼働する予定となっている。

アヴィシュカル・チームとポッドの
プロトタイプ
(写真と画像はIITマドラス校提供)

ディスカバリー・キャンパスに建設中の真空試験施設

チームの主な目標は、高速、手頃な価格、信頼性の高い持続可能な輸送のためのハイパーループ技術の進歩と商業化である。

現在ではさらに視野を広げ、同校にハイパーループ卓越センターの設立を目指している。 また、ディスカバリー・キャンパスの400 メートル真空管施設を利用して、グローバル・ハイパーループ・コンペティションを実施し、インドをハイパーループ研究の世界的中心地にしたいと考えている。

以上、本シリーズでは、IITマドラス校のインド国内外での高評価に貢献していると考えられる、複数拠点、制度、活動内容等について紹介した。これら以外にも、現在では、学内に、医療科学工学科の学部と大学院も新設され、IIT マドラス校は更なる拡大を続けている。

このシリーズ終わり

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