インド工科大学マドラス校(IIT-M)は7月23日、IIT-M化学部とインドのCSIR国立冶金研究所(CSIR-NML)の研究者らが、使用済みリチウムイオン電池(LIB)やニッケル水素電池(NiMH)から金属を分離する際のイオン液体(IL)の利用に関する総説論文を発表したことを報告した。研究成果は学術誌Journal of Molecular Liquidsに掲載された。
LIBは、電気自動車(EV)や携帯電子機器、ハイブリッド自動車に使われている。こうした電池をリサイクルし、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガンなどの金属を抽出するため、乾式冶金や湿式冶金、その両者を組み合わせたリサイクルプロセスが世界的に検討されている。しかし、これらの方法は、強酸を使用するか、高温でコストのかかる有機溶媒を使用するため、環境的に好ましくない。そこで、環境に優しく持続可能な方法でLIBから金属を抽出する方法が求められている。
使用済みLIBから金属を抽出するために使用されるイオン液体(IL)は、環境にやさしく、効率的で、無害である。ILは、低蒸気圧、無視できる毒性、環境に優しい特性を持つことから、金属抽出において有機溶媒より有利である。ILは、イミダゾリウム系、ホスホニウム系、フッ素系、非フッ素系、機能性ILに分類される。これらの中でも、特定の金属イオンとの反応性から、機能性ILが優れていると考えられる。
LIBに使用されるコバルト、ニッケル、リチウムは、商業的価値が高い金属のため、その抽出が重要となっている。イミダゾリウム系ILは、塩化物媒体からのコバルト抽出に有効であるが、その効率的な抽出・分離においては、さらなる研究が必要となっている。インド工科大学グワハティ校(IIT-G)化学工学部の教授であるタマル・バネルジー(Tamal Banerjee)氏は、著者らの総説論文を次のように評価した。
「LIBやNiMHは、不均一な組成のため、ニッケル、コバルト、リチウム、マンガン、亜鉛、銅の分離が困難となっています。IL溶媒にある新しい陽イオンと陰イオンが大きな注目を集めています。この総説は、LIBやNiMHから金属抽出するためのILの最近の開発について論じ、効率と選択性を向上させた機能性ILの進歩に焦点を当てています。これらの機能性ILは、電池リサイクルのための持続可能な金属抽出をより実行可能なものにします」
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部