インド科学技術省(MoST)は9月22日、傘下のラマン研究所(RRI)の研究者らが原子を極めて高いエネルギー状態にまで励起すると、互いに強く相互作用し、光に対する応答が歪む現象をリュードベリ原子で世界で初めて実証したと発表した。
リュードベリ原子は最外殻電子を高いエネルギー準位に押し上げて巨大化させた原子で、環境への感度が極めて高く、量子コンピューターや高精度センサーの基盤技術として注目されている。一方で、その高感度さが制御を難しくしている。研究チームは、ルビジウム原子を絶対零度に近い温度まで冷却し、レーザーと磁場で閉じ込めて観測を行った。

閉じ込めた冷却原子系におけるリュードベリ励起の模式図
(出典:PIB)
通常、励起した原子は「オートラー・タウンズ分裂」と呼ばれる明瞭なパターンを示すが、エネルギー準位が100を超えると信号がぼやけ、歪みが生じた。これは原子が単独ではなく、互いに影響し合いながら集団的に振る舞うことを示す証拠とされる。研究チームは、この相互作用による歪みが、量子システム設計において孤立原子の精密制御と集団的量子状態のシミュレーションを分ける境界を示す重要な指標になると説明している。
本研究は、RRIのサンジュクタ・ロイ(Sanjukta Roy)教授のグループが主導し、インド科学教育研究大学プネー校(IISER-P)のレジッシュ・ナス(Rejish Nath)教授のチームが理論解析を担当した。実験では、わずかな光子を検出できる高感度システムを構築し、励起確率の低い高次のリュードベリ状態(n>100)の信号を観測することに成功した。
今回の成果は、原子の振る舞いを理解する新たな視点を提供し、将来の量子技術の発展に向けた重要な手がかりとなる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部