韓国の浦項工科大学校(POSTECH)は4月28日、同校と中国電子科技大学の研究者らが次世代ディスプレイや電子デバイスの性能を飛躍的に向上させる新技術を開発したことを発表した。研究成果は学術誌Nature Electronicsに掲載された。
スマートフォンで動画をストリーミングしたり、ゲームを楽しむ際、数千個のトランジスタが電流を制御している。トランジスタにはn型(電子輸送)とp型(正孔輸送)の2種類があり、一般的にはn型デバイスが高性能とされている。しかし、低消費電力で高速処理を実現するには、p型トランジスタの性能向上が不可欠である。研究チームは、この課題を解決するため、スズ系ペロブスカイトという新しいp型半導体材料に注目した。独特の結晶構造を持つこの材料は、p型トランジスタの有力候補だが、従来の溶液プロセスでは品質を安定させた大量生産が難しい課題があった。
今回、研究チームは、熱蒸着法を用いて高品質なヨウ化セシウムスズ(CsSnI3)半導体層を製造する技術を開発した。熱蒸着法は、有機ELテレビや半導体チップ製造で広く使用され、材料を高温で蒸発させて薄膜を形成する。これにより、製造の安定性が大きく向上した。
また、塩化鉛(PbCl2)を少量加えることで、薄膜の均一性と結晶性を向上させ、正孔移動度が30cm2/V·sを超え、オン/オフ電流比が108という高い性能を実現した。これにより、低消費電力かつ高速信号処理が可能となり、既存のn型酸化物半導体と同等の性能を示している。この技術は、p型トランジスタを大面積デバイスにも適用でき、OLEDディスプレイ製造装置とも互換性があるため、コスト削減や製造プロセスの合理化が期待される。
(出典:POSTECH)
POSTECHのノ・ヨンヨン(Yong-Young Noh)教授は、「この技術は、処理温度が300℃以下と低いため、スマートフォンやテレビ、ウェアラブル電子機器向けの超薄型・高解像度ディスプレイの商用化に向けた大きな可能性を切り開きます」と述べている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部